2023.6.24 (土)
2023 明治安田生命J1リーグ 第18節
FC東京 × 名古屋グランパス
( 味の素スタジアム,19:00 )
introduction
- J1リーグ戦は前節で折り返し地点となる17試合を終え、この週末からは後半戦がスタートする。ここしばらくは週1,2試合でコンスタントに日程を消化してきたし、カレンダー上では7月中旬から3週間のブレイクが入るため、「ここから後半戦」という実感はあまり無いのが正直なところだが、いずれにしてもシーズンはあと半分しかなく、ここから順位争いはますます熾烈を極めていく段階だ。我らがFC東京は今節、リーグで暫定2位につける名古屋グランパスをホームに迎えての試合となる。
- 気温が上がってくる夏場を前に、今節からは週末でもナイトゲームでの日程が組まれている。今日の昼間も30℃に迫る気温となり、高い湿度も相まってかなり蒸し暑かった。飛田給に着いた時点では多少涼しくなってきてはいたが、選手にとってはやりづらいコンディションの時期がやってきたなという感じがする。観客にとっては気軽な服装で観戦できる時期ということもあってか、味スタには28,636人が来場。特に小学校の低学年程度とおぼしき子供たちが多く来場しており、トイレの列整理が全然できておらずちょっとしたカオスになっていたのが印象的だった(笑)。
- 東京にとってのこの2週間は、まさに「激震」であった。6/10に行われたガンバ大阪とのアウェイ戦で1-3と完敗して迎えた週明けの火曜日、クラブからアルベル監督の退任が発表されたのである。17試合を終えて勝点「19」はJ2に降格した2010年シーズン以来のスローペースであり、順位も12位に沈む状況とあって、クラブが遂に決断を下した形だ。後任には今季途中までモンテディオ山形を率いていたクラモフスキー監督が就任。今週の火曜日からチーム練習に合流し、実質4日間の準備期間でこの試合日を迎えるに至っている。
- 個人的に、アルベル監督の退任には納得していない。2022年のスタート当初から「全員で一緒に旅をしよう」というキャッチフレーズのもと、長期的な視点でチームを見ていくものだと思っていたからだ。今季に入って結果が出ていなかったのは事実だし、現場レベルでしか分からないような不和や求心力の低下などもあったのかもしれないが、この低迷は一概に監督1人に責任を転嫁できるものではなかったと解釈している。従って監督を代えれば解決するような問題ではなく、拙速な判断だったのではないかというのが正直な感想だ。また、クラモフスキー監督も今季途中で山形の監督の座を「解任」という形で追われており、結果を出すために代える監督としては未知数なのも懸念点だ。決まった以上は応援するが、成績を見て監督を代えた以上は、後半戦の結果はシビアに評価していく必要があるだろう。
- 発表された今日の東京のスタメンは、先週末の6/17に行われたルヴァンカップのアウェイ・京都戦(3-1で勝利)をベースにしたラインナップ。その試合では暫定的に指揮をとった安間コーチが4-2-3-1のシステムを採用したが、この試合でも同じ並びを踏襲するかもしれない。選手紹介の煽り映像ではアルベル前監督の映り込むカットが編集されて綺麗さっぱりと削除されており、最後に大映しされる「全員で一緒に旅をしよう」のキャッチフレーズも「東京が熱狂」のクラブスローガンに置き換わっていた。
- 対する名古屋の脅威となるのは、なんといってもユンカー・マテウス・永井の強力な3枚のアタッカー。ユンカーは浦和レッズから今季加入したばかりでありながら早速ゴールを量産しており、昨季シーズン途中に東京から完全移籍で古巣に復帰した永井も、往時の得点感覚を取り戻している。また今年に入ってから日本代表も招集されている藤井や森下といった伸び盛りの選手も多く擁し、リーグ2位につけているのも納得のラインナップだ。
1st half
- 東京のスタートの並びは4-2-3-1。松木と安部がボランチに入り、トップ下には渡邊が入る形。一方の名古屋は3バックでスタート。前線はユンカーを頂点に永井とマテウスが下がり目の1トップ2シャドウだが、マテウスがフリーマンとなって頻繁に立ち位置を変えるため、3-4-1-2のようにも見える変則的な並びだ。
- 試合は両チーム共にやや落ち着いた入り。基本的には東京がボールを保持する一方、名古屋は5-4-1のブロックを築いて構え、中央に入ってくるボールは徹底的に刈り取る狙いだ。東京は7分に中盤でボールをキープしたディエゴが単独のドリブルでシュートへ持ち込むチャンスを作る場面を作る一方、名古屋も16分に左サイドへ流れた永井のフィードをユンカーが頭で落とし、これにマテウスが抜け出して決定機を迎えるが、素早く距離を詰めたスウォビィクがシュートをストップ。ここは事なきを得るが、前3人だけの関係性でチャンスを作ってくるのは怖いところだ。
- 17分、東京はディエゴが左サイドに流れて受けたところから外周をドリブルでハーフスペースまで持ち運び、中央へのラストパスを渡邊がシュート。これは枠を外してしまうが、直後の18分、名古屋の自陣からの繋ぎをハイプレスにかけて奪い、中央で受けた渡邊のパスを受けたディエゴがマークを背負いながらも反転しながらシュート。これがゴール左隅に決まって1-0。ディエゴの圧巻のテクニックでゴールをこじ開け、東京が久々に先制点を奪う。
- 幸先の良いゴールを奪った東京だが、ここからは名古屋が徐々に支配を強める。特に球際へのアプローチが厳しくなり、ファウルで試合が止まる場面が増える。29分には仲川と長友が共に足を痛めて試合が中断。長友は大丈夫な様子だが、仲川は試合再開後すぐにプレイをやめ、結局塚川に交代となってしまった。ここからは渡邊が右サイドに出て塚川がトップ下に入る。
- 前半の終わりごろにかけては名古屋が攻勢を強める。42分にはスウォビィクのクリアを狙い撃ちされて自陣内でボールを奪われ、永井が中央に落としたボールをマテウスがダイレクトで叩くが僅かに枠の上。続く43分には右サイドでの稲垣のキープからマテウスを経由してユンカーがPA内に侵入し、ハーフスペースから中央へのマイナス気味の戻しに永井が走りこむものの、撃たれる寸前で渡邊がカットに入りゴールを割らせず。前半はどうにか1-0のリードで折り返す。先制はできたものの、圧力を増す名古屋に対して徐々に押される展開だった。この流れを断ち切りたい。
2nd half
- 後半は開始早々に東京がチャンス。安部のスルーパスを受けた俵積田が抜け出しかけるものの、相手のカバーが間に合いフィニッシュに失敗。その後もチャンスが続き、51分には右サイドでのキープから細かく繋いで最後は安部がドリブルで中に持ち込みシュート。これはランゲラックのセーブに遭うものの、狭いエリアからよくシュートまで持っていった。
- 64分、名古屋は2枚替えで永井と和泉が下がり、重廣と河面を投入。後半の頭から出ていた山田がアンカーポジションの3-3-2-2となる。重心をより前に押しあげるシステム変更だ。対する東京は同タイミングで俵積田を下げて東を投入。東はそのまま左SHに入る。この起用はアルベル監督時代には無かったものだ。ぱっと見では重心が後ろにいきそうな交代にも見えるが、どう出るか。
- 71分、東京はPA内に侵入したディエゴの左からの折り返しに塚川が飛び込むものの、相手のカバーが間に合いシュートに行けず。しかしその流れから中盤でエンリケが再びボールを奪取すると、勢いのままドリブルで持ち込み、強烈なミドルシュートを見舞ってランゲラックにCKへ逃げさせる。これまで滅多に攻撃参加を見せてこなかったエンリケの大胆な仕掛けに、スタンドからは大きな歓声。相手陣内から人数をかけてプレスをかけにいく東京の守備に対して名古屋はなかなか裏を返すことができない。
- なおも東京のハイプレスは途切れること無く続き、77分には名古屋のゴールキックでのリスタートからサイドでボールを受けた石田のミスパスを誘い、プレゼントボールを引き取る形となったディエゴが完全にフリーでPA内に侵入。ランゲラックもかわしてフィニッシュへ持ち込むが、シュートはわずかに左。ゴールマウスに相手FPのカバーが入っていたとはいえ、これは決めておきたかった。
- しかし80分、プレスを緩めない東京は再び相手陣内で波状攻撃を見せ、左サイドでボールを受けた安部がドリブルでハーフスペースまで侵入し、中央へ丁寧なクロスを上げる。人数こそ揃っていた名古屋の守備だが、僅かな間隙に入り込んだディエゴが頭で合わせると、シュートはゴールの左隅へ転がり込んだ。再三に渡るチャンスの末に東京がようやく名古屋のゴールをこじ開け、2-0。ディエゴがホーム側のスタンド近くまで駆け寄ると、それを中心に選手たちが集まってゴールを祝福。スタンドからは地鳴りのようなディエゴのチャントが響き渡り、ちょっと鳥肌ものだ。
- 81分、名古屋は途中出場の貴田のミドルシュートをスウォビィクが弾いたところをユンカーが押し込んでゴールネットを揺らすものの、これはユンカーのオフサイドでゴールは無し。リードを広げたことで少し守りのスイッチが入ってしまったか、やや東京が受け身に回るものの、ベンチはすかさずペロッチと野澤を投入。特にJ1初出場を果たした野澤は前線から猛烈なチェイスをかけて名古屋のパスを寸断し、相手に傾きかけた流れを食い止めた。結局、2-0のまま試合終了。東京がリーグ戦で5試合ぶりの勝利を収め、クラモフスキー監督の采配初戦を飾っている。
impressions
- 東京にとって会心の勝利といえるゲームだった。監督交代という勝負手を切ったクラブにとって重要度の高いゲームであったことは間違いないが、そうはいっても相手は現在4連勝中の好調・名古屋である。長谷川監督も東京の強みと弱みは充分に把握していただろうし、いくら「監督交代ブースト」が効いたとして、容易なゲームでないことは誰しもが予想していたことだ。しかし蓋を開けてみれば、ほとんど付け入る隙を与えない完勝。ファンとして嬉しさは当然あるが、それ以上に、ここまでうまくいくものなのかと驚かされたというのが素直な感想である。
- 勝因はいくつか考えられると思うが、前半をリードで終えられたのは大きなポイントだろう。5バックで構えた状態の名古屋の守備は手堅く、まともに攻略を試みるならば外周から崩していくしか手掛かりの無い状況だったが、ハイプレスおよび守備から攻撃への切り替えの速さで中央にボールを収め、ディエゴの一撃でゴールを奪った。守備ではハイプレスをかわされるとDFラインだけの「薄皮」の対応になるリスクがあり気を抜けなかったが、そこは運動量でカバーできていた。前半の途中から球際で厳しく当たられる局面が多くなり、仲川が負傷交代するなどフィジカル的にタフな展開となってしまったのは気になったポイントである。
- 後半は運動量が落ちて名古屋のペースに付き合わされるおそれがあったが、東京の運動量が全く落ちなかった。それは相手側の陣内からスタートするハイプレスにおいて顕著に表れていた。名古屋の脅威が前線の強力なアタッカーであることは何度も記しているとおりだが、それならばボールの供給源から断ってしまえば良い。特にサイドで圧力を掛けて奪い切る場面は試合を通して多かった。ベンチワークにおいても、塚川や東という守備で貢献できる選手の起用が見事にはまっており、特に名古屋のサイド攻撃を支える森下に全く仕事をさせないまま途中交代に追いやったのは大きな戦果だった。またJ1初出場ながら野澤は献身的なチェイスを見せており、なかなか好印象だった。
- ハードな守備も出色だったが、この試合最大の殊勲者はなんといっても2得点をマークしたディエゴだろう。1点目は相手のマークを背負った状況でボールをちょんと横にトラップして振り向きざまにシュートを放つ技ありのゴール。シュートの勢い自体はそれほど強くなかったが、名手ランゲラックをしても意表を突かれたのか、ゴール右隅を捉えたシュートに手が届かなかった。2点目はなかなか追加点が取れない状況でようやく決めた駄目押しのゴールで、勝利を決定づけるものだった。それより前の決定機で決めきれない場面があったのも事実だが、最後にしっかり結果を出してくるところはさすが。チームが苦しい状況の中、絶対に勝たなければならない試合でゴールを決める。これこそがストライカーである。
- 新監督による準備期間が実質4日間しかない中、短期間でチームビルディングしてここまで持ってきたことも評価したい。時間的制約のもとで東京のチームカラーや現有戦力を考えれば、ハイプレス&ショートカウンターに活路を見出すのは必然の解であるが、それでリーグ屈指の堅守速攻を誇る名古屋を圧倒してみせた点には素直に驚いた。ただ、ハイプレス頼みでのサッカーでシーズンの最後まで戦い抜くことができるとはちょっと思えない。7月は上位チームとの試合や天皇杯のヴェルディ戦など負けられない試合が続くだけに、クラモフスキー監督の独自色を早い段階で落とし込んでいく作業が必要になるだろう。浮かれるにはまだ早い。
- 東京は本日の勝利によって勝点を「22」に伸ばし、順位は1つ上がって11位に浮上。依然として負け数の方が多く充分な成績とはいえないが、ここは地道に勝利を積み重ねていくしかない。次節はホームゲームが続き、柏レイソルとの対戦が予定されている。ホームでの連戦ということもあり、ここは連勝を狙うしかないだろう。1週間のインターバルを有効に使い、次のゲームに万全の状態で臨んでもらいたい。
FC東京 |
2 |
1 | 前半 | 0 |
0 |
名古屋グランパス |
1 | 後半 | 0 |
|
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ディエゴ オリヴェイラ | 18' | 得点 | | |
ディエゴ オリヴェイラ | 80' | | | |
GK | 27 | ヤクブ スウォビィク | GK | 1 | ランゲラック |
DF | 37 | 小泉 慶 | DF | 2 | 野上 結貴 |
| 3 | 森重 真人 | | 4 | 中谷 進之介 |
| 44 | エンリケ トレヴィザン | | 13 | 藤井 陽也 |
| 5 | 長友 佑都 | MF | 7 | 和泉 竜司 |
MF | 7 | 松木 玖生 | | 6 | 米本 拓司 |
| 8 | 安部 柊斗 | | 15 | 稲垣 祥 |
| 11 | 渡邊 凌磨 | | 17 | 森下 龍矢 |
FW | 39 | 仲川 輝人 | | 10 | マテウス カストロ |
| 9 | ディエゴ オリヴェイラ | | 18 | 永井 謙佑 |
| 33 | 俵積田 晃太 | FW | 77 | キャスパー ユンカー |
GK | 41 | 野澤 大志ブランドン | GK | 16 | 武田 洋平 |
FP | 4 | 木本 恭生 | FP | 5 | 長澤 和輝 |
| 10 | 東 慶悟 | | 19 | 重廣 卓也 |
| 17 | 徳元 悠平 | | 24 | 河面 旺成 |
| 22 | ペロッチ | | 35 | 山田 陸 |
| 35 | 塚川 孝輝 | | 42 | 貴田 遼河 |
| 42 | 野澤 零温 | | 46 | 石田 凌太郎 |
ディエゴ オリヴェイラ | | 18' | 得点 | | | |
| | | 警告 | 25' | | 米本 拓司 |
| | | 警告 | 29' | | 永井 謙佑 |
仲川 輝人 | | 34' | 交代 | | | |
塚川 孝輝 | | | |
| | | 警告 | 35' | | 野上 結貴 |
| | | 警告 | 45+1' | | マテウス カストロ |
安部 柊斗 | | 45+7' | 警告 | | | |
| | | 交代 | HT | | 米本 拓司 |
| | | 山田 陸 |
ディエゴ オリヴェイラ | | 58' | 警告 | | | |
| | | 交代 | 64' | | 永井 謙佑 |
俵積田 晃太 | | 64' | | 重廣 卓也 |
東 慶悟 | | | 和泉 竜司 |
| | | | 河面 旺成 |
ヤクブ スウォビィク | | 72' | 警告 | | | |
| | | 交代 | 76' | | 森下 龍矢 |
| | | 石田 凌太郎 |
ディエゴ オリヴェイラ | | 80' | 得点 | | | |
| | | 交代 | 81' | | 野上 結貴 |
| | | 貴田 遼河 |
エンリケ トレヴィザン | | 84' | 警告 | | | |
渡邊 凌磨 | | 85' | 交代 | | | |
野澤 零温 | | | |
ディエゴ オリヴェイラ | | | |
ペロッチ | | | |