2023.5.12 (金)
2023 明治安田生命J1リーグ 第13節
FC東京 × 川崎フロンターレ
( 国立競技場,19:30 )
introduction
- 大型連休が終わって最初の週末は、1993年5月15日のJリーグ開幕からちょうど30年を迎える節目のタイミング。それを記念してか、今週末のJリーグはJ1からJ3の各カテゴリで同県・隣県対決が多く組まれている。我らがFC東京もご多分に漏れず、今節は川崎フロンターレとの「多摩川クラシコ」がマッチメークされた。試合はJリーグ30周年記念のスペシャルマッチとして、週末に先駆けて金曜ナイトゲームでの開催。また試合会場は味の素スタジアムではなく国立競技場となっている。
introduction
- 仕事の後の所用を片付け、新宿から都営大江戸線に乗り換えて国立競技場駅に到着したのは試合開始の20分前。駅構内は観戦客で大混雑だ。駅を出て千駄ヶ谷門付近へ急ぐと、両チームのファンだけでなくスーツ姿の観戦客が多く入口に並んでおり、金曜夜の都心での開催というマッチメークが集客効果を高める上で大きな要素であることを物語っている。年間チケットを持っている自分の席は2層目のホーム側バックスタンドが指定されており、2層目専用の入口から入場。キックオフ直前の混雑にしては非常にスムーズな入場だった。改築後の国立競技場ではこれまで3層目のチケットを好んで買っていたので、2層目での観戦は初めて。着席してみると適度な俯瞰で観ることができ、観戦上の問題は全く無さそうだ。
- 注目の中での試合を迎える東京だが、チームは非常に苦しい状況に立たされている。4/29にホームでアルビレックス新潟に2-1で勝利し、今季初の連勝を飾ったものの、大型連休中の5/3に行われたアビスパ福岡とのアウェイ戦では0-1の敗戦。0-0で膠着した展開の中、自分たちからバランスを崩すシステム変更をしたことが裏目に出た試合だった。更に中2日で行われた5/6の北海道コンサドーレ札幌とのアウェイ戦でも1-5と大敗。九州から北海道への移動があったというエクスキューズはあるにせよ、内容面が気になる2連敗となり、順位も11位に後退している。今週は選手だけでのミーティングも行われたと聞いており、この難局をどう乗り越えるかが気になる所だ。今週からはアルゼンチンで開催されるU-20ワールドカップを戦う世代別代表に選出された松木と熊田が当面の間不在。今節は中盤に小泉と安部、そして前節は出場停止だった東がスタメンに復帰している。
- 対する川崎も、今季は万事が上手く運んでいるシーズンではない。昨季リーグタイトルを争った横浜F・マリノスとの開幕戦で敗れたのを端緒に、3月は公式戦で未勝利に終わるなど、川崎らしからぬ取りこぼしが続いてスタートダッシュに失敗。主力選手のアクシデントによる離脱など、メンバーを固定して戦うことができなかった影響で、上位争いからはやや水をあけられてしまった。しかし4月下旬からは負傷者が戻ってきてメンバーがある程度固まってきたこともあり、直近のリーグ戦3試合では3連勝と復調の兆しが見えつつある。今節は上位追撃のため、更に連勝を伸ばしたいはずだ。
- 前述のとおり平日開催となったこの試合だが、Jリーグのアニバーサリーマッチということでリーグやクラブの営業努力が実を結び、観客数は56,705人と東京のホームゲーム過去最多を更新。選手入場時の炎や花火による演出に加えて、ドローンによる空中でのライトアップまで行われるなど、相当な力の入れようだ。両チームのゴール裏もぎっしりと埋まり、応援の雰囲気も文句無し。妙な高揚感に包まれながらキックオフの瞬間を迎えた。
1st half
- テキストスタートの並びをチェックして最初に気づいたのは、東京の並びが4-2-3-1ではないこと。てっきり小泉と東がボランチに入るものと思っていたが、東がアンカーに入り小泉と安部がインサイドを形成する4-1-2-3を敷いてきたのだ。昨季から取り組んできた馴染みのシステムに戻した一方、前からしっかりプレスで絡めとることができなれけば、カウンターを中心とした守備時のリスクは当然抱えることになる。川崎も同じ考えか、立ち上がりは両チーム共にリスクを負った攻撃は仕掛けず、慎重な入り方だ。
- 12分、東京は右サイドからのラフなクロスに中央の安部が競ると、ファーサイドにこぼれたボールを徳元が回収。徳元がカバーに戻ってきた家長をキックフェイントでかわして持ち替えると、やや狭い角度ながら右足を振り抜く。矢のようなシュートがゴール右隅に突き刺さった次の瞬間、試合序盤ならではの熱気を保ったままのスタンドから大きな歓声が上がった。徳元はこの重要なゲームでチーム加入後初ゴール。東京が1-0と先手をとる。
- その後も主導権を握り、シンプルな形でのチャンスが続く東京。25分、相手陣内でのプレスから右サイドでディエゴがボールを奪取すると、ドリブルで中央へ運んでから左サイドの徳元へ展開。ボックス付近から徳元がシュート性の速いクロスを中へ送り込むと、正面に走り込んだ安部が滑り込みながらボールを押し込んで2-0。4-1-2-3で前からプレスではめに行く狙いが、ここで見事にゴールへ繋がった。東京が川崎相手にリードを広げる。この展開は正直、自分も予想していなかった。
- ここまで一方的なくらいの東京の流れだったが、川崎も遅まきながらペースを上げてくる。28分に右サイドを起点にして瀬古がハーフスペースの山根へスルーパスを通してくるが、これは折り返しを最終ラインでカット。34分には家長のシュートが東京の選手に当たり、ボールがフリーの宮代の足元にこぼれて大ピンチとなるが、宮代のパワーシュートはスウォビィクが即座に距離を詰めてセーブ。間一髪での守備が続く。
- 39分、川崎は中盤での素早いパス回しから瀬古がボックス付近で待つ宮代に縦パスを入れると、宮代はマッチアップの木本に距離を詰めさせず右足でコントロールショット。僅かな隙で放ったフィニッシュだったが、これがスウォビィクの伸ばす手を僅かにかすめてゴール右隅に決まり2-1。川崎が前半のうちに1点を返す。得点自体は宮代のスキルを褒めるしかないが、縦パスをつけられて最終ラインだけでの対応になったのが苦しかった。前半はこのまま2-1で終了。2-0にするまでは完璧に近い試合運びだったが、守勢に回ってからは防戦一方だった。どこかで流れを断ち切りたい。
2nd half
- 川崎の猛攻が予想される後半は、序盤に大きな分岐点を迎える。50分、東京は左CKのこぼれ球がファーサイドにこぼれた所を仲川が追って回収しようとすると、PAの僅かに外で脇坂がスライディングで仲川にタックルし、ファウルの判定。当初は特に問題なく直接FKで再開されそうになるが、しばらく置いて西村主審がVARのサポートに基づきオンフィールドレビュー。ビジョンには仲川の後方から脇坂が足裏を見せながらタックルを仕掛ける様子が映し出され、スタンドからは大きなどよめきの声が起きる。結果、脇坂にはレッドカードが提示され一発退場。ここから川崎は10人で1点を追いかけることになる。東京にとってはプラスに働くジャッジだがどうなるか。
- 畳み掛けたい東京は54分、右サイドを崩してハーフスペースまで侵入した小泉が中へ折り返し、フリーで中央に走り込んだ渡邊がダイレクトでシュートへ持ち込むが、相手DFがカットに入りコースが変わったシュートはクロスバーを直撃。リードを広げる絶好のチャンスを生かせない。
- 川崎は59分にマルシーニョと瀬古を下げ、大島と遠野の2枚を投入。2人ともワンプレーで流れを変えられる、極めて怖いプレーヤーだ。川崎は中盤の底を大島とシミッチの2人で押さえ、遠野を左のアタッカーに配置。東京もほぼ同じタイミングでディエゴを下げてアダイウトンを投入し、3トップの頂点に配置。シンプルな形での追加点を狙う。
- 68分、川崎は左サイドの崩しからハーフスペースにパスを入れ、折り返しのこぼれ球を宮代がゴールライン際で拾いシュートへ持ち込むがスウォビィクがセーブ。ゴール前に人数が密集していてよく分からなかったが普通に大ピンチだった。75分、川崎は宮代を下げて切り札の小林を投入。前線の圧力を強める。78分には右からのサイドチェンジをPA内でフリーで受けた遠野が絶好のシュートチャンスを迎えるが、ゴール右隅を狙ったフィニッシュはスウォビィクが左手一本で弾くスーパーセーブ。こぼれ球にすかさず山根が詰めるものの、これは危うく枠の左へ。本日最大のピンチを切り抜ける。
- 87分、川崎は再び遠野が左から中に切れ込んで今度はループ気味のチップキックでゴールを狙うものの、スウォビィクが指先で弾いてまたしてもゴールを割らせず。再三に渡りゴールを脅かされる東京だが、迎えたピンチはこれが最後となった。こぼれ球回収からキープの時間も作ることができた東京は守勢には回ったものの波状攻撃は許さず、試合終了のホイッスル。2-1で逃げ切りに成功した東京が、3試合ぶりに勝点3を確保している。試合後のゴール裏挨拶の際には、得点を決めた徳元と安部の「シャー」に続き、アルベル監督も出てきて「シャー」のパフォーマンス。国立に集まった東京ファンにとっては大満足のゲームとなった。
impressions
- 両チームの状況から見ても川崎の圧倒的優位は揺るがないと思われた試合だったが、東京が前節の大敗から1週間でチームを立て直し、見事に「戦える仕様」にアジャストしてきた。川崎からの公式戦勝利は2020年のルヴァンカップ準決勝以来。リーグ戦に限定すれば、2018年5月に等々力で2-0で勝利した試合まで遡らなければならず、本当に久しぶりに川崎から勝点「3」を挙げたことになる。東京のホームゲームとしては過去最多の観客が集まった中、国立競技場の特別な雰囲気のもとで試合ができたことも、川崎への苦手意識を幾分かは軽減させてくれたのではないだろうか。
- 前半30分までの内容で勝った試合だったといえる。ここ数試合、結果の出ていなかった4-2-3-1のシステムを見直し、昨季から取り組んできた4-1-2-3に戻して、きっちり前からプレスを仕掛けにいくスタイルを実践。同時に攻撃はシンプルにして、不要なロストを減らすようにした。この狙いが見事に的中した。1点目はミドルゾーンからのシンプルなクロスに対して安部が競ったことで徳元にボールがこぼれたし、2点目はディエゴのハイプレスから相手のコートでボールを奪えたことで生まれたもの。いずれも東京が元々得意にしている形であり、そこでアドバンテージを作れるようなシステムを採用していたことが本日最大の勝因といえるのではないか。
- 一方で、川崎に主導権を握られてからは防戦一方だった。中盤でのパスワークでリズムを作られるとなかなか奪いどころが無く、特に瀬古には好きなようにドリブルや縦パスを許してしまった。帰陣を素早くしてブロックを固められているうちは良かったが、宮代の得点シーンのように、最終ラインだけでの対応になると少し対応が苦しかった。4-1-2-3が抱える構造的な問題でもあるが、もっと運動量を増やしてカバーのスピードを上げなければならないのかもしれない。今日に関しては、後半の早い時間帯に脇坂が退場となり、数的有利になったことにも助けられたことは認めざるを得ない。ただ、昨季のリーグ戦最終節では同様に相手が退場者を出して数的有利だったのにも関わらずゴールをこじ開けられ、敗れている。展開や形はどうあれ、まずは勝った。それだけでもまずは評価されるべきだろう。
- この重要な一戦で輝きを放ったのは左SBでスタメンの徳元。開幕当初はベンチにも入れない試合があったが、カップ戦で存在感をアピールし、バングーナガンデの負傷もあって出番を確保するようになってからパフォーマンスがますます上がってきている。ボール扱いが上手で、攻撃面でのセンスがあるのは分かっていたが、今日の1ゴール1アシストには驚かされた。2点目のアシストの場面では、ディエゴからパスが入った時点でスタンドの観客も「何かやるぞ」という空気になっていたし、それで実際にアシストを決めたのだから見事なもの。中村の負傷でSBが手薄な中、徳元への信頼感が一気に増す試合だった。
- 良かったのは徳元に限った話ではなく、決定的なピンチを何度も救ったスウォビィク、献身的なチェイスとボールキープで時間を作り、試合終盤までピッチに立ち続けた仲川、縦横無尽にボールを追い続けた小泉など、どの選手もしっかりと「個」の強さを示していた。今の東京にとっては、そういった個人の強みが最も出やすい解が4-1-2-3なのだろう。それなりに長い間東京をウォッチしてきた中で、色々なシステムを試して上手くいかず、ボランチ2枚のシステム(4-2-3-1や4-4-2)に回帰して落ち着いた事例は何度も観てきたが、今回は違う。「4-1-2-3に回帰して成功した」のだ。これは自分の中ではちょっとした事件である。次節以降チームがどうするかは分からないが、今後の流れを変える大きな1勝になるかもしれない。
- 今日の試合結果を受け、東京は5勝3分5敗で勝敗をイーブンに戻し、勝点を「18」に伸ばして川崎と並んだ。上位争いからは依然として置いていかれた状態ではあるものの、絶対に届かない位置というわけでもない。今後の日程を見ると、鹿島→神戸→横浜Mと、上位陣との対戦が続いており、結果次第では再浮上を狙うことも可能だ。無論、下手すれば全敗もありえる厳しい相手だが、ここはチャレンジする価値があるのではないか。まずは来週末、鹿島アントラーズとのアウェイ戦がある。「やりにくいアウェイ」としてはトップクラスでもあるカシマスタジアムでの試合だが、今日のような試合ができれば結果はついてくるはずだ。期待して結果を待ちたい。
FC東京 |
2 |
2 | 前半 | 1 |
1 |
川崎フロンターレ |
0 | 後半 | 0 |
|
|
|
徳元 悠平 | 12' | 得点 | 39' | 宮代 大聖 |
安部 柊斗 | 25' | | | |
GK | 27 | ヤクブ スウォビィク | GK | 99 | 上福元 直人 |
DF | 5 | 長友 佑都 | DF | 13 | 山根 視来 |
| 4 | 木本 恭生 | | 3 | 大南 拓磨 |
| 3 | 森重 真人 | | 7 | 車屋 紳太郎 |
| 17 | 徳元 悠平 | | 2 | 登里 享平 |
MF | 10 | 東 慶悟 | MF | 6 | ジョアン シミッチ |
| 37 | 小泉 慶 | | 14 | 脇坂 泰斗 |
| 8 | 安部 柊斗 | | 16 | 瀬古 樹 |
FW | 39 | 仲川 輝人 | FW | 41 | 家長 昭博 |
| 9 | ディエゴ オリヴェイラ | | 33 | 宮代 大聖 |
| 11 | 渡邊 凌磨 | | 23 | マルシーニョ |
GK | 41 | 野澤 大志ブランドン | GK | 1 | 鄭 成龍 |
FP | 15 | アダイウトン | FP | 8 | 橘田 健人 |
| 22 | ペロッチ | | 10 | 大島 僚太 |
| 33 | 俵積田 晃太 | | 11 | 小林 悠 |
| 35 | 塚川 孝輝 | | 17 | 遠野 大弥 |
| 44 | エンリケ トレヴィザン | | 20 | 山田 新 |
| 49 | バングーナガンデ 佳史扶 | | 31 | 山村 和也 |
徳元 悠平 | | 12' | 得点 | | | |
安部 柊斗 | | 25' | 得点 | | | |
仲川 輝人 | | 32' | 警告 | | | |
渡邊 凌磨 | | 34' | 警告 | | | |
| | | 得点 | 39' | | 宮代 大聖 |
| | | 警告 | 45+3' | | ジョアン シミッチ |
| | | 退場 | 52' | | 脇坂 泰斗 |
| | | 交代 | 59' | | マルシーニョ |
| | | 遠野 大弥 |
| | | 瀬古 樹 |
| | | 大島 僚太 |
ディエゴ オリヴェイラ | | 60' | 交代 | | | |
アダイウトン | | | |
渡邊 凌磨 | | 73' | 交代 | | | |
塚川 孝輝 | | | |
| | | 交代 | 75' | | 宮代 大聖 |
| | | 小林 悠 |
| | | 家長 昭博 |
| | | 橘田 健人 |
| | | 交代 | 82' | | ジョアン シミッチ |
| | | 山田 新 |
仲川 輝人 | | 88' | 交代 | | | |
バングーナガンデ 佳史扶 | | | |
| | | 警告 | 90+1' | | 車屋 紳太郎 |
| | | 警告 | 90+5' | | 大南 拓磨 |
| | | 交代 | 90+7' | | 大南 拓磨 |
| | | 山村 和也 |