東京オリンピック・パラリンピックの関係で味の素スタジアムでの試合を開催できずにアウェイでの連戦が続いていた東京だが、その長期ロードがやっと終わり、今節は久しぶりとなる味スタでのホームゲーム。飛田給で京王線を降りるのもちょっと懐かしいくらいだ。未だ5,000人上限の観客数制限が設けられており、駅前はやはり試合当日とは思えない閑散ぶりだが、味スタが見えてきたときの高揚感は以前と変わりなく、少しだけ安心だ(笑)。東京は今節からホーム4連戦。そして現在の勝点は「42」だ。前日の試合を終えた段階でACL出場圏内の3位・鳥栖は勝点「50」。決して追い付けない差ではなく、ホーム連戦で一気に勝点を稼ぎたいところだ。更にチームには朗報が続いており、2010年シーズン途中に海外移籍でチームを離れていた長友が11年ぶりに東京に復帰することが決定。今日は試合当日ではあるが、長友の35歳の誕生日という縁もあってか午前中に移籍加入が発表され、昼にはYouTube配信で移籍会見も行われた。チーム事情に関して言えば、長友の主戦場であるサイドバックはやや人員過剰の感は否めないものの、強度の高いリーグで経験を積んできた長友の復帰は少なからずチームに刺激をもたらしてくれるはず。特に現在レギュラーである鈴木と小川は、ポジションを守るためにより一層の奮起を期待したい。今日の対戦相手は、現在「30」ポイントで14位と苦しいシーズンを送っている柏。柏とは昨季のルヴァンカップ決勝で競り勝った記憶がまだ鮮明に残っているし、今季のリーグ戦でも5月にアウェイながら4-0で東京が圧勝している。最近はそこまで苦手にしていないイメージがあり、明確に勝点「3」を狙いたい相手である。東京は先週のルヴァンカップ・札幌戦と同じスタメン。一方の柏はメンバー表からは少し並びが読めなかったが、始まってみると3-4-2-1の布陣だったようだ。
スコアが動いたのは立ち上がりの9分。柏は中盤でボールを持ったクリスティアーノが裏のスペースに浮き球のパス。ゴールを空けて出てきた波多野と、ボールを追う渡辺がややお見合いのような形になると、このボールを猛然と追った1トップの細谷が僅か先にボールに触れて抜け出し、無人のゴールに流し込んで0-1。東京の曖昧な対応を突いて柏が先制に成功。東京はいきなり出鼻を挫かれてしまったような感じで、スタンドも呆気にとられたような雰囲気だ。まだ時間は80分以上あるので焦る必要は無いが、非常にいただけない失点である。20分、東京はレアンドロがゴール正面でのボールキープから巧くファウルをもらい直接FKを獲得。これをレアンドロ自身が蹴って狙うが、ゴールマウス右隅を捉えた見事なシュートはGKの金承奎がコースを読み切って阻止。結局、前半の東京のチャンスらしいチャンスはこの1回だけ。その後は柏がボール回収からの速攻で押し込む場面が目立ち、東京は何度も帰陣を余儀なくされて消耗だけが嵩む45分間だった。軌道修正が必要なのが明らかな状況の東京は、HT明けから2枚替えを行い、三田とアダイウトンに代えて青木と永井を投入。この交代策は効果的だった。青木が入ったことで中盤が落ち着きを取り戻し、ボールを拾えるようになる。58分、安部が裏のスペースに出したロングボールを永井が追って抜け出すと、ハーフスペースからの折り返しをフリーのディエゴがトラップして左足でコントロールショット。しかしこれはゴール左ポストを叩き、決定機をものにすることができない。柏が椎橋・武藤とフレッシュな選手を投入して逃げ切りを図る中、東京も67分に東に代えて田川を投入。すると73分、東京は自陣でのセットプレイの守備からボールを奪回してカウンターが発動。安部から出たパスをレアンドロがドリブルで運び、ラストパスに田川が抜け出してGKと1vs1の場面を迎えるが、ゴール右隅を狙ったシュートは僅かにゴールマウスを逸れて外れてしまう。直後の74分にも東京が押し込む流れで左サイドからのクロスを田川がヘディングで合わせるが、これもゴールマウスの左に外れてしまい、立て続けの決定機をものにできない。その後の東京は髙萩を右サイドに投入するなど更なる手を打ったものの、中央を固めてシャッターを下ろし始めた柏の守備をこじ開けることはできず、結局0-1のまま試合終了のホイッスル。結局、2ヶ月半ぶりに味スタに戻ってきて最初の試合は痛恨の敗戦。スタンドからは選手に労いの拍手こそ起きていたものの、上位を追うチームにとっては手痛い1敗となった。
第三者的な立場で見れば、柏の試合運びの巧みさを褒めるべき試合だったのかもしれない。前半の立ち上がりからハイプレスをかけて東京の組み立てを無効化し、攻撃の精度が粗くなったところでボールを回収して素早く攻撃に転じるスタイルが見事に機能していた。細谷の先制点はその積極的なプレッシングが生み出した副産物ともいえる。後半の柏は東京が立て直したことで守勢に回ったものの、前線に武藤とマテウスサヴィオという強力なカードを投入して牽制しながらゲームをクローズ。特にラスト15分間はPA内を埋めて幕引きを図った。今季は下位に苦しんでいる柏だが、確かな試合巧者ぶりを見せつけた試合だったと思う。東京はミスによる失点が痛恨だったのは言うまでもないが、後半に度重なる決定機をことごとく決めきれなかったのも痛かった。後半の選手交代の采配自体は的確だっただけに、あまりに勿体ない敗戦だ。後半から青木が入ったことで中盤の主導権を奪い返すことができたし、ディエゴを2列目に下げたことでプレッシャーが少なくなり、58分の決定機のような場面も生まれた。そこで追いつけず、田川の投入という「第二の矢」が放たれたわけだが、直後の連続決定機でまたしても決めきれず、以降は柏が撤収作業に入ってしまった印象。やはり「決めるべきところ」で決めておかないと、勝てる試合も勝てなくなる。試合終盤は髙萩を右サイドに配するなど、実戦であまり観たことのないシステムで戦っていたが、柏が中央を固めている状況下ではサイドから揺さぶり続けるしかないはずであり、そういう展開で髙萩をサイドに置くのが妥当なのかどうかは、少し疑問に感じた。ただ、それ以前の話として、ミスによる失点がプランを狂わせたことを重く受け止めるべきだろう。2ヶ月半ぶりの味スタで多くの東京ファンが待ち望んでいた試合だったし、チームとしてもSNSを駆使したりして色々なプロモーションを仕掛けていたにも関わらず、腰が砕けるような失点1つで負けてしまうのは、シンプルに「残念」という感想しかない。試合後には移籍加入が決定した長友がピッチに登場し、マイクの前に立ってなんとしても東京にタイトルをもたらしたいと強く決意を語ってくれた。長友は次節から出場可能になるようなので、良い雰囲気をチームに持ち込んでほしい。今日のような試合がきっかけでチームのバイオリズムが下降線に向かうのは本当に勿体ないので、仕切り直して次の試合でしっかり勝てるように準備をしてほしいと願う。