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2021.5.16 (日)
2021 明治安田生命J3リーグ 第8節
Y.S.C.C.横浜 × テゲバジャーロ宮崎
( ニッパツ三ツ沢球技場,13:00 )

まだシーズン前半の現時点での話にはなるが、今季のJリーグはどのカテゴリでも「昇格組」が頑張っている。J1でいえばアビスパ福岡、J2ならばブラウブリッツ秋田がそれにあたるといえるだろう。そしてJ3にも、勢いのある「昇格組」がいる。今季がJリーグ参入初年度となるテゲバジャーロ宮崎だ。7試合を終えて既に4勝を挙げており、ここまでで積み上げた勝点は「13」で暫定3位。首位に立つ岩手から僅か1ポイント差しかなく、参入初年度から優勝争いを繰り広げてもおかしくないポジションにつけている。個人的にも宮崎を現地で観たのは九州リーグからJFL昇格を決めた2017年の地域CLが唯一にして最後。それから4年も経っているため、宮崎は改めて観たいと思っていたのだが、ちょうどこの週末はYSCCとの対戦が組まれており、近所の三ツ沢で観ることができる。天気予報はあいにくの雨となったが、少し現地観戦に「飢えていた」こともあり、雨具の準備をして三ツ沢へと向かった。宮崎をホームに迎えるYSCCは、6試合を終えてリーグ戦では未だに勝利無し。降格制度の無いJ3とはいえ、ずっと勝てないままで良い理由などあるわけは無いし、ホームチームにとっても勝点「3」獲得は至上命題といえそうだ。不安定な天気ながらも三ツ沢には1,000人を超える観客が来場。マッチデースポンサーの動員が多少掛かっていた模様だが、それでも感染症の不安が付きまとう時勢の中、J3下位に沈むチームの試合で1,000人も来てくれるのは良いことだ。そしてこの試合、笛を吹く山下良美主審はJリーグで初めての女性主審で、Jリーグの試合で女性が主審を務めるのは今回が初めてだったらしい。結構前にJFLで女性主審が裁いているのを観たことはあるので、「珍しいな」という程度の感想だったが、試合後にはサッカー関係のメディアで大きなトピックとして取り上げられていた。全くの偶然とはいえ、このような場に立ち会うことができたのは僥倖だったのかもしれない。

前半立ち上がりはやや出入りの激しい内容。7分、宮崎は左SBの大熊のクロスにファーサイドの梅田がフリーでヘディングを放つが、ゴールの僅かに左。10分にはYSCCが右サイドの裏に出たボールをンドカが追い、PAから飛び出してきたGK・植田がンドカを倒してファウル。ゴールから遠い位置だったので警告で済んだが、ゴール正面に近ければ一発退場でもおかしくない際どい場面だ。どちらに転んでもおかしくない入り方となったが、先手を奪ったのはアウェイの宮崎。18分、中盤での短いパスの繋ぎから、ボールを引き取った渡邊が細かなタッチでPA至近まで持ち込むと、右足でゴール右隅を狙ったコントロールショットを沈めて0-1。相手に囲まれながらも正確にゴールマウスを射抜いた渡邊のテクニックを称えたい、見事なフィニッシュだ。この後は、キックオフ時からぽつぽつと降り始めていた雨脚が徐々に強まり、プレーするにも観戦するにもタフなコンディション(笑)。両チーム共にボール扱いに慎重になったこともあってか、膠着気味の展開となり、そのままハーフタイム。YSCCは前半立ち上がりのアグレッシブなプレスが鳴りを潜め、どこで反撃のスイッチを入れるかが重要になりそうだ。後半に入ると、そこまで降っていた雨がピタリと止む。すると59分、宮崎は左サイドで複数人に囲まれながらもボールをキープした渡邊が、裏へ走る動きを見せた梅田に縦パスを供給。梅田がそのままPAまで持ち運んでマークを引きつけ、ゴール中央へラストパス。そこにフリーで待っていた藤岡がダイレクトでシュートを押し込み0-2。試合の流れを決する次の1点もまたアウェイチームがゲットした。ホームながら2点を追うYSCCは、直後に2枚替えで攻撃的な選手を投入。2トップの一角に入るピーダーセンは慶應大時代にポストプレイで流れを変える役割を担っていたのを何度か観たことがあり期待大だ。ところがその肝心の楔のボールがなかなか入ってこない。宮崎が前半以上にハイプレスの強度を高めてきたのだ。YSCCは後ろでボールを回して起点となるボールを入れたいようには見えるが、宮崎のプレスを前になかなか精度の高いボールを蹴ることができず。宮崎もシステムを変更せずにフレッシュな選手を次々と投入し、プレス強度を維持し続けた。結局、YSCCが終盤に何度かロングボールを試みる場面があったものの決定機を作れないまま試合終了。宮崎が無失点で乗り切り、アウェイで勝点「3」を奪取。YSCCのリーグ戦初勝利は今節もお預けとなった。

スコアの見た目以上に、宮崎がしたたかさを見せつけた試合だった。J参入初年度とは思えない老獪な試合運びだった。前半は前線から強く行き過ぎることなく、中盤に網を敷いて「獲りどころ」を決めていたような印象。前田・千布のボランチのところで奪い、精度の高い地上戦で攻め切るスタイルでリードを奪った。後半にはYSCCが攻勢に転じることを見越してか、前線からのプレスの強度を上げて精度の高いボールを蹴らせず。攻撃では前半と同様に縦に速い攻撃を繰り出し、鮮やかな繋ぎで追加点を奪ってみせた。勝負どころの「ツボ」を押さえた戦いぶりには驚かされるばかりで、現在J3の上位争いに加わっているのも納得の試合運びだった。今日の宮崎の中で最も輝きを放った選手を1人挙げるならば渡邊龍で間違いないだろう。先制点は味方のパスを受けて中央へ切れ込み、細かなステップからゴール右隅を狙って見事にシュートを決めてみせた。後半に入ってからの2点目も、相手の複数人の選手にマークに付かれながらも梅田へ絶妙な縦パスを通して追加点の起点に。J3らしからぬスキルの高さを見せつけた。日体大から大卒でJFL時代の宮崎に加入して3年目の選手だが、育成世代ではFC東京U-15深川→FC東京U-18というキャリア。全国津々浦々、様々なカテゴリにFC東京出身者がいると、ファンとしてはやはり嬉しい気持ちになる。この渡邊だけでなく、チームメイトでは大熊が同じFC東京の下部組織出身だし、内藤監督も現役時代にFC東京でプレーした経験があるので、感情移入せずに観るのはちょっと難しいところだ。一方、敗れたYSCCは、試合序盤の混沌とした時間帯にしかチャンスを作れなかった。攻撃時にはボランチの土館がDFラインに下がり、サイドバックの攻撃参加を促していたが、そこまでボールを繋いでも、ゴール前でシュートを撃つ場面まではほとんど作らせてもらえず。後半から守備の強度を上げてきた宮崎に対してアジャストしきれないまま終わってしまった。攻撃陣の「火力不足」が否めない分、失点をなるべく減らしてロースコアの展開に持ち込むことができれば、勝点「3」奪取が近づくのではないかと思う。結果的には両チームの状態がそのまま表れたといえる一戦だったが、まだJ3は序盤戦。両チームの今後の戦いぶりに期待したい。個人的には関東で観る機会の少ない宮崎のサッカーを楽しめたし、雨を覚悟の上で足を運んだ甲斐のある試合だった。

Y.S.C.C.横浜 0 0前半1 2 テゲバジャーロ宮崎
0後半1
得点19'渡邊 龍
57'藤岡 浩介

GK 1佐川 亮介 GK 47植田 峻佑
DF 23船橋 勇真 DF 2青山 生
5池ヶ谷 颯斗 3井原 伸太郎
3宗近 慧 33代 健司
33一宮 憲太 21大熊 健太
MF 10柳 雄太郎 MF 23徳永 裕大
4土館 賢人 17前田 椋介
8吉田 明生 7千布 一輝
6佐藤 祐太 18渡邊 龍
FW 29河辺 駿太郎 FW 25梅田 魁人
11ンドカ チャールス 11藤岡 浩介

GK 31谷 俊勲 GK 32石井 健太
FP 2花房 稔 FP 5黒瀬 純哉
7神田 夢実 14サミュエル
15ピーダーセン 世穏 15内薗 大貴
25西山 峻太 20橋本 啓吾
28オニエ オゴチュクウ 22綿引 康
34大城 蛍 36三村 真

シュタルフ 悠紀リヒャルト 内藤 就行

警告10'植田 峻佑
得点19'渡邊 龍
得点57'藤岡 浩介
柳 雄太郎58'交代
神田 夢実
河辺 駿太郎
ピーダーセン 世穏
交代62'藤岡 浩介
橋本 啓吾
船橋 勇真65'交代
花房 稔
交代71'梅田 魁人
サミュエル
徳永 裕大
内薗 大貴
一宮 憲太81'交代81'渡邊 龍
西山 峻太黒瀬 純哉
ンドカ チャールス前田 椋介
オニエ オゴチュクウ三村 真

山下 良美

1,082人