本日は長野県内でのハシゴ観戦に来ている。昼間に松本で全社長野県予選を観戦したのち、篠ノ井線を使って南長野運動公園・長野Uスタジアムへ移動。本日の現地観戦2本目、J3・長野×福島を観る。南長野に来るのは2018年シーズン以来、約3年ぶりの訪問だ。観客数は3,000人に満たない入りで、メインスタンド席を購入すれば上層スタンド最前列の座席が自由に選べる状況。スタジアムの観戦環境と臨場感は本当に素晴らしいだけに勿体ないなと思う。昨季クラブ初のJ2昇格まであと1勝というところまで迫りながら、最終節にホームで痛恨の敗戦を喫して昇格を逃した長野にとっては、リスタートとなる1年。今季は5試合を消化して1勝4分。開幕節で勝利した後に4試合ドローが続いており、そろそろ次の勝利が欲しい状況である。一方の福島は、4/16のJリーグ公式PCR検査でトップチーム選手2人の新型コロナウイルス感染が判明。チーム内の濃厚接触者も多かったことから、4/18以降のチーム活動自粛が決定。前節の試合は延期となった。その後、4/26に個人レベルでの練習は再開されたものの、全体練習は今日解禁されたばかり。つまり、この試合は全くの「ぶっつけ本番」ということになる。福島にとってはまさに「逆境」といえる中での試合になるが、どんな試合になるのだろうか―。下世話極まりないが、自分のこの試合最大の興味はそこにある。また更に個人的な話にはなるが、この長野×福島というカードには妙な縁がある。J3でこのカードを観るのは4度目なのだ。2014年、J3初年度の西が丘での開幕カード。2016年、福島ホームでの平塚開催。そして2018年、大規模改修後の南長野を見るために訪れた際と、J3の観戦計画を立てるとなぜだかこのカードに巡り合うのだ。きっと今回もそういう「縁」なのだろう。
試合の立ち上がりは長野が高い位置から強めのプレスをかけ、ゴールに対して貪欲な姿勢を見せる場面が目立つ。久々の公式戦となる福島に対して出鼻を挫く狙いもあるのだろう。6分、左SBの山本からのクロスに1トップの佐野が完璧なタイミングでヘディングを放つが、これはGK・山本の正面。攻撃の手数では長野の方がやや多い印象だ。一方の福島は、試合への準備状況を考えれば1トップのイスマイラにシンプルに収めるサッカーをするのが現実的かと思っていたが、予想に反してパスを繋ぎながらじっくりと長野陣内を押し込んでくる。7分にボランチの鎌田が右のハーフスペースにスルーパスを通してチャンスを作るなど、意図を持った縦パスが何度か出てきている状況だ。どちらにも大きな決定機の無いまま時間が進み、長野は序盤のテンションが少し落ちてくる。すると36分、福島の攻撃を長野がハイラインで奪おうとする場面で、こぼれ球を拾った鎌田が裏のスペースを狙って蹴ったボールにイスマイラが反応。悠々と抜け出してGKと1vs1の状況になると、これをイスマイラが冷静にゴール右隅に沈めて0-1。たびたび中盤から良い縦パスが出てきていた福島だが、それがゴールに結実して前半を終える。後半から長野は2枚替え。1トップには今季からチームに加入した金園が入る。金園のJ1所属時代を知っている身からすると、これは怖い交代だ。後半最初のチャンスを作ったのは福島。50分、ショートカウンターから雪江が抜け出してシュートチャンスを作るが、これはブロックが入って僅かにゴール上へ。53分、長野は右CKのボールがファーサイドに流れたところに詰めていた広瀬がフリーとなりヘディング。しかしこれも山本の正面を突く形となって弾き出されてしまう。長野は金園の投入でバイタルエリアでのキープが増えた印象があるが、決定機までには至らない。福島は飲水タイム明けの69分にボランチの鎌田と柴を同時に下げる思い切った采配。守備でリスクのある交代に見えるが、集中力を切らすことなく時間を使っていく。終盤には福島がDF登録の岡田を中盤に追加投入し、更なる守備固め。後半ATの長野の攻勢も届かず、0-1のまま試合終了となった。タイムアップの瞬間、時崎監督をはじめとした福島ベンチからは大きな雄叫びの声。まるで優勝を決めたかのような歓喜の輪ができた。「ぶっつけ本番」の難しい試合を制した福島が、大きな勝点「3」を確保した。
どちらに転んでもおかしくない内容だったが、終わってみれば福島の「粘り勝ち」という感じの試合だった。長野は試合への入りは悪くなかった。高い位置からの執拗なプレスで主導権を握る構えを見せ、実際に最初の30分間はゲームをコントロールできていた。しかし、そこで無得点のままトーンダウンしたところに虚を突かれてしまったような形で失点してしまった。後半の早い段階での交代策は間違っていなかったと思う。1トップに金園、2列目に三田を入れたことでボール支配率はより高まり、前半よりも高い位置でボールをキープできるようになった。しかしクロスの数を増やすことはできていた一方で、リズムが単調だったように思う。ゴール前の選手の頭に合わせるような速いボールを多く入れてはいたが、福島の守備陣もいち早くアジャストし、淡々と跳ね返すことができていた。こういう時にドリブルでPAの内側へ切れ込んだり、マイナスのクロスや、目線を変えるファーサイドのクロスなどをもっと織り交ぜることができれば、得点の可能性はもう少し広がったのではないだろうか。長野は今季初の敗戦で、今日の試合の課題に対してどのように取り組み、改善するかがチーム力を問われる部分になるだろう。一方の福島は、Jリーグの歴史でもあまり前例のない「準備期間なし」という極限の状況下で、よく90分間を戦い抜いたと思う。こういう状況下では、「とにかく守備で踏ん張って、攻撃はワンチャンス狙い」となってしまいそうに思うが、中盤からの縦パスを起点とした攻撃を仕掛け、長野の守備を主体的に崩そうという意図の試合を見せていた。長野も中盤が奪いどころと見たか、そこに対して圧力をかけてきたが、ハイラインとなった裏を突くイスマイラのゴールで先制するというしたたかさも見せた。終盤はさすがに押し込まれたが、なりふり構わぬ撤退戦の構えを見せ、勝点「3」へのこだわりを見せていた。その忍耐あっての、試合終了後の大歓喜だったのだと思う。感染症という見えない敵とも戦いつつ、チームとして満足な練習のできない逆境で手にした勝利には、ただの勝点「3」以上の価値があるはずだ。ビジター席に訪れていた福島サポーターは10~20人程度しかいなかったが、サポーター冥利に尽きる瞬間だったのではないか。いちサッカーファンとして、このような場に立ち会えたのは幸せなことだし、長野まで足を伸ばして良かったなと思える一日だった。