今日は関東近郊の有観客で行われるJ公式戦が多くなく、検討した末に日帰りで信州へ向かうことにした。夕方に南長野でJ3・長野のホームゲームを観るのが主目的であるが、時間的にハシゴ観戦が可能そうなので探してみたところ、全社長野県予選が松本で行われるとの情報を発見。時間的に準決勝2カードの1試合目が観戦可能で、しかもその第1試合のカードがアルティスタ浅間とアンテロープ塩尻という北信越リーグ勢同士の対決。これは観ない手は無く、急遽早朝の「あずさ」の切符を押さえて中央本線を下る。試合会場は松本平広域公園の「球技場」。松本山雅FCが使っているアルウィンと勘違いしてしまいそうになるが、同じ公園内でもかなり離れた場所にあるので注意が必要だ。塩尻で「あずさ」を降り、鈍行に乗り換えて広丘からタクシーで現地へ向かう。ちなみにドライバーさんも会場名を伝えたらアルウィンと勘違いしていた(笑)。どうにか正しい会場の近くで降ろしてもらい現地着。会場には「観客席」と呼べるような代物はなく、ピッチ周りの通路に立っての観戦。キックオフ10分前になっても観客が数人しかおらず、「もしかして無観客開催だったか?」と焦るが、開始直前になると両チームのファンや選手の家族と思われる観客がぞろぞろと集まってきた。今日の信州は少し冷え込んでいるし、公園内の駐車場などに車を止めて暖を取っていたのだろう。この全社長野県予選は、シードありのノックアウト方式で最後まで勝ち残った1チームが全社北信越予選への出場権を獲得するというフォーマット。長野県内だけでも北信越リーグ勢が4チームいるので、この中で勝ち残るのは相当な狭き門である。これから観る第1試合に関しては、北信越2部の塩尻が同1部の浅間に対して胸を借りるという構図。浅間のホーム扱いとなっているが、塩尻が赤の1stユニフォームを着用していた。場所的には塩尻の方が実質ホームなので、浅間側の配慮があったのかもしれない。
両チーム共にスタートのシステムは4-1-4-1。シンプルにゴール前での場面を作ってくるのは浅間の方だが、塩尻もセカンドボールを拾って簡単には相手のペースにさせない。塩尻の中盤インサイドには、松本山雅FCが北信越リーグやJFLを舞台にしていた頃に主力として活躍した今井昌太がいる。2017年シーズンを最後に一度現役を退いたが、今季から再びプレイヤーとして戻ってきたらしい。そんな今井にボールが渡ると確実に収めて、上手く相手のファウルを誘ってくれる。味方にとっては安心できる存在だろう。そんな今井の存在に呼応してか、塩尻が徐々にチャンスを作っていく。14分、右サイドから攻めあがった勝沢のクロスのこぼれ球に東城が詰めるが惜しくも枠の上。29分、左サイドでの今井のキープからクロスが入り、勝沢が落としたボールを廣瀬がフリーでフィニッシュへ持ち込むが、シュートはGK・藤森がストップ。ここまではむしろ塩尻の方が押している。浅間も24分にインサイドの大槻が1トップの高貝とのワンツーからシュートに持ち込むが、GK・三栗が正面でストップ。前半終了間際の39分にはハイプレスでのボール奪取から岡本がシュートへ持ち込むなど猛攻を見せるが、塩尻が耐えて前半終了。40分ハーフなので少し早めのHTだが、45分ハーフだったら浅間に1点入っていたかもしれない。後半に入ると再び浅間が攻勢を強め、52分には右から左への大きなサイドチェンジから岡本がこの日2度目の決定的なシュートチャンスを迎えるが、これも三栗が見事な反応で弾き出して先制を許さない。さすがは元インカレ優勝GKだ。しかし57分、浅間が左CKを得ると、中央へのボールに三栗が被ってしまい、フリーで詰めていた玉林が難なく押し込み1-0。浅間が遂にゴールをこじ開ける。直後の59分、塩尻は今井が交代でお役御免。フィジカル的にはこれくらいが限度なのだろう。塩尻は4-2-3-1にシステム変更して縦に速い攻撃を試みるが、ここからが浅間の真骨頂。65分、左サイドで受けた岡本のグラウンダーの折り返しにファーサイドの山下が詰めて押し込み2-0とすると、その後もプレスの強度を上げてセカンドボールを支配。終了間際の80分には、ハイプレスでボールを奪ってから途中出場の長野がエリア外から強烈なミドルシュートを突き刺して3-0。これで完全に塩尻の息の根を止めた。このまま試合終了となり、浅間が6月に行われる決勝戦に駒を進めた。
終わってみれば浅間がスコアどおりの実力差を見せつけての完勝。極めて順当といえる結果になった。前半は我慢の時間が長かった。塩尻が中盤で時間を作ってきたこともあり、一旦自陣に下がっての守備を余儀なくされたが、切り替えがちゃんとできており、塩尻の1トップ・勝沢をハーフスペースの幅から追い出すことで中央の守備を固めていた。前半の終盤に一度攻撃のラッシュを仕掛けたもののチャンスを決めきれず、若干試合が難しくなってしまったが、後半に相手のミスにも付け込みセットプレイで先制してからは一方的な展開となった。後半の時間が進むにつれて塩尻の運動量が徐々に落ちていってしまったのに対し、浅間は全くテンションが落ちなかった。セカンドボールを拾えただけでなく、高い位置からのプレスもかかっていて、塩尻に全く隙を見せなかった。試合巧者ぶりもさることながら、それを支えるフィジカルの強さに唸らされる80分間だった。個人的に面白いプレーをしていたのは左サイドアタッカーの岡本。シュートセンスが抜群で塩尻の守備を常に脅かす存在だった。またチーム3点目の長野のミドルシュートは、フリーだったとはいえこのカテゴリではあまり観られないレベルのゴラッソで、思わず「うおおッ」と声が出てしまったくらい。良いものを観られたなと思う。一方、最終的には完敗となった塩尻も、矜持は見せられた一戦だったのではないか。特に今井のいた前半は中盤で溜めを作れたらDFラインからプッシュアップをして、人数をかけた攻撃をすることができていた。中央ではフリーな場面が少なかったが、こぼれ球を拾ってのシュートチャンスは作れていた。守備でも三栗を中心とした最終防衛ラインでどうにか凌いでいた。塩尻にとって不運だったのは、その三栗の目測ミスで失点してしまったのと、今井のスタミナ切れがほぼ同時間帯だったこと。サッカーの内容を大幅に変えざるを得なくなり、そこを端緒に一気に仕留められてしまった。しかし途中までの塩尻のゲームプランは完璧だったし、何かが起きてもおかしくない試合だったと思う。塩尻の試合はこれまでに数回観ているのだが、どの試合にもちゃんとした狙いがあって、観ていて後味の悪さが少ない印象がある。こういうチームは観ていてスカッとする。今日、この試合を観に来て良かったし、また塩尻の試合を観戦したいと思う。夕方の南長野に向け、大満足で会場を撤収した。