同一会場でのダブルヘッダーとなる東京都サッカートーナメント・準決勝。第1試合では、学生系の部代表の駒澤大学が、社会人系の部代表のCriacao Shinjukuを2-0で下し、決勝に駒を進めた。第2試合の結果によって、決勝戦が再び「社会人vs学生」の構図となるか、あるいは学生同士の対決となるかが決まる。第2試合は、この準決勝から天皇杯予選に登場となる東京武蔵野ユナイテッドFCと、学生系の部の予選を勝ち上がってきた法政大学の対戦だ。第1試合の終了後にはスタンドの半分程度のお客さんが席を立ったが、すぐに武蔵野サポーターの方や、法政の部員応援団がスタンドに陣取り、観客数は第1試合と同程度となった。JFLに所属する武蔵野は例年どおり社会人系の部の予選を免除されての出場。いきなり敗退というのは社会人の全国リーグに所属するチームとしては避けたいところだ。都学連に所属する大学出身の選手も数多く在籍しており、学生系の部で本大会や予備予選に出た選手も多いはず。相手が大学生だからといって侮るようなことは絶対にしないだろう。対する法政は、学生系の部の予備予選を順当に勝ち上がり。既にJリーグクラブへの加入内定を得ている選手が複数人所属しており、川崎に内定済の松井蓮之、横浜FCに内定済の田部井涼など、初見ながら名前は聞いたことのある選手が今日もちらほらとスタメンに名を連ねている。なおFC東京ファンとしては、U-23チームがJ3に参戦していた際にU-18から2種登録で出場していた久保征一郎が背番号「9」を背負ってスタメンに入っているのも興味深いところだ。ちなみにこのカードは、昨年の本大会の決勝カードと同じ。前回は1-0で武蔵野(昨年は「東京武蔵野シティFC」で出場)が勝利しており、法政にとっては1年越しのリベンジマッチとなる。
試合は開始早々に法政が圧倒的にボールを支配。9分、左サイドからアタッキングゾーンに侵入したSBの陶山がハーフスペースの安光にパスを出すと、安光のマイナス気味の折り返しを松井が左足で悠々と決めて0-1。ここまで武蔵野が全くといっていいほど攻撃の形を作れない中、あっさりと試合の均衡が崩れる。武蔵野は3月のJFLで観た時とは違い、3-4-2-1のシステムでスタート。守勢が予想される中、まずは一旦受けようという意図があったのかもしれないが、その狙いは早々に打ち砕かれる。先制後も法政の猛攻は続き、「この試合、何点入るんだ?」と思ってしまうくらいに一方的な内容だが、武蔵野もゴール前に人数をかけて守備を固め、少ないチャンスを仕留める狙いを崩さないまま、0-1で前半を終える。すると後半、武蔵野は割り切った攻撃にシフトチェンジ。49分、法政のDFラインの裏を取った石原がロングボールに抜け出す流れから、セカンドアタックに飯島が再び裏をとるが、法政DFの高嶋が強引にファウルでストップ。どうにか警告にとどまったが、この一連の流れで武蔵野が味をしめたか、中盤を省略したラフなロングボールで法政の裏を突いていく。前半と対照的に守勢に回った法政は、久保を含む前線の顔ぶれを変えるなどの方策を打つが、武蔵野に傾いた流れは変わらない。79分、武蔵野は左サイドの伊藤がドリブルでカットインを仕掛け、中央のこぼれ球を拾った鈴木(裕)が強引にシュート。するとこれがGKのファンブルを誘い、こぼれたボールが転々とゴールネットに収まって1-1。多少運の要素も働いたとはいえ、武蔵野が狙いどおりの流れから同点に追いつき90分間が終了。試合は10分ハーフの延長戦に突入する。延長戦は再び法政が勢いを取り戻し、圧倒的に攻め込むものの、武蔵野が必死の守備で跳ね返してゴールを許さず、決着はPK戦に持ち越された。法政は延長後半の終了間際にGKを交代。控えGKの中川を投入してPK戦に臨む。PK戦は両チーム共に淡々とシュートを決めていく緊張感の高い展開。サドンデスの6人目に武蔵野と法政が共にPK失敗するなどスリリングな展開となるが、8人目にしてようやく決着。先攻・武蔵野の小松﨑の正面へのキックを中川がストップし、後攻の法政・吉尾は冷静に決めて試合終了。法政が昨年決勝戦のリベンジを果たし、決勝戦進出を決めた。試合後の整列ののち、殊勲のPKストップとなった中川と、この日スタメンでゴールマウスに入っていた近藤の2人が歓喜の抱擁をかわす姿が印象的だった。
法政が圧倒的に支配したゲームだったが、終わってみればPK戦での決着。武蔵野の粘りがあったからこその接戦だった。法政は試合の入りから猛攻を仕掛け、10分も経たないうちに先制。得点に至るまでの形も鮮やかだったし、さすが関東大学リーグの強豪なだけあると感じさせるものだった。特にボランチの田部井と松井のコンビのプレーは圧巻。田部井は視野の広さと正確な左足のキックで良い散らしを見せていたし、松井も中盤でのボール回収とシンプルなタッチでのボール捌きで攻撃をリズムに乗せ、自身も1得点と存在感を見せた。この2人がプロに内定しているのは納得がいくし、来年以降のプロキャリアも楽しみだ。開始15分間はそんな法政の完全なワンサイドゲームで、試合の勝敗への興味が何分まで持つか心配になるほどだったが、裏を返せばこの時間帯で「1点しか取れなかった」ことが法政にとって試合を難しくした。武蔵野の5バックの守備がフィットしてきてからはボールを握っても決定機までなかなか繋げられず、後半は武蔵野の中盤を省略する攻撃に苦しみ、終盤に追いつかれる嫌な展開となってしまった。仕切り直しの延長戦では再び内容で圧倒したが、ここでもゴールまでは結びつけられず、相手にとって都合の良いPK戦に持ち込まれたことは法政にとっての反省点といえるだろう。PK戦はひとえに「PK要員」としてゴールマウスに入った中川の活躍が全てだった。キッカーにプレッシャーのかかりやすい後攻となる中、味方のキッカーに小まめに声をかけて武蔵野の選手に間接的にプレッシャーをかけていたのが、サドンデスの6人目以降に効果を発揮。PK戦の直前でGKを代える作戦が的中する好例となった。一方、敗れた武蔵野は、後半の清々しいまでの「割り切り方」が見事だった。なにせ法政の中盤にはプロ内定コンビがいるわけであり、そこを地道に攻略するくらいなら中盤を省略してしまえば良い。特に後半は風がやや強くなったこともあり、法政のハイボールへの対応が少し怪しかったのも背中を押したはずだ。他方で、全てが運任せというわけでもなく、同点弾に繋がる伊藤の左サイドからのカットインなど、個の力でのチャレンジも光っていた。結果としては敗退となったが、「内容の前にまず結果」という戦い方を見せたところはさすが武蔵野だなと感じる試合だった。これで5月9日に行われる予定の決勝戦は、駒澤大学と法政大学の大学対決に決定。社会人チームにとっては来年の大会での捲土重来を期したいところだ。