この週末は東京がアウェイ・福岡での試合だったこともあり、近場で一番興味のあった東京都サッカートーナメントの準決勝2試合を観る。天皇杯の東京都代表を決定するトーナメント戦で、社会人系の部と学生系の部の各予選を勝ち上がった4チームが対戦する形式だ。東京都は社会人も大学もレベルが高く、かといって両者が真剣勝負の場で対戦する機会というのはそう滅多には無いため、個人的には結構好きな大会である。昨年は新型コロナウイルスの影響で無観客での開催を余儀なくされた本大会だが、今年は無事に有観客での開催も決定。個人的にも久々の訪問となる西が丘へ向かう。今日は未明まで荒れ模様の天気だったが、朝になってからはカラッと晴れて絶好の観戦日和だ。入場ゲートでの検温や、間隔を空けての着席などの制約はあるものの、スタンドは混んでおらず、観戦環境も申し分ない。11:30キックオフの第1試合は、関東1部のCriacao Shinjuku(クリアソン新宿)と、関東大学1部の駒澤大学の対戦。クリアソンは社会人系の部の予選を兼ねた東京都サッカーチャンピオンシップに勝ち残っての参戦だ。所属カテゴリーこそ関東1部リーグではあるが、昨季のオフには元Jリーガーを大量に補強し、次のステップとなるJFL昇格に向けて本腰を入れてきたように見える。クラブの現在地を測る意味でも、上位カテゴリーや大学の強豪校と対戦できるこの大会は重要な位置づけといえそうだ。一方の駒澤大学は、学生系の部の代表決定戦で強豪の明治大学を3-1で撃破し、本大会進出を果たしている。両チーム共に実力はかなり高いと思われるが、真剣勝負の場での対戦ではどのような展開になるか。興味深い一戦だ。
前半は両チーム共にストロングポイントを押し出しつつも慎重な展開。クリアソンは2トップの一角に入る岡本がトップ下のフリーマンに近い役割で、低い位置まで下りてきてボールの捌き役を担う形。駒澤がブロックをセットして待ち構えている状態では、左サイドの瀬川と伊藤の元Jリーガーユニットがフィジカルとテクニックでこじ開けていこうという狙いだ。一方の駒澤は、短いパスを織り交ぜつつも、基本的には前線で待つ宮崎と土信田の2トップに長いボールを蹴りつつ、セカンドボールを狙って食らいついていくお馴染みのスタイルだ。前半はしばらく決定機の無い時間が続いたが、38分、クリアソンは右サイドの長いボールを起点に、高橋から原田にラストパスが通る。マーカーのDFが転倒してあとは決めるだけという場面だったが、シュートはGK・松本が好セーブで凌ぎピンチ脱出。直後の39分には駒澤のロングフィードからこぼれ球を拾った島崎がドリブルで中央をこじ開け、こちらもGKと1vs1の状況になるが、シュートは大きく枠の上に外れてしまい、こちらも決定機を決められない。両者1点もののチャンスを逃し、0-0で前半を終える。後半に入るとややゲームスピードがアップ。手数ではややクリアソンが上回るが、等しくチャンスがあり、どちらに転んでもおかしくない展開だ。ベンチとしては動きづらい展開だが、先に動いたのはクリアソン。71分、今季の目玉補強の1人でもある森村を含む2枚替えでシステムも3-4-2-1に変更する。77分には更に2枚替え。フレッシュな選手を入れて打開しようという狙いか。79分、右サイドでのクリアソンのスローインに対し、駒澤がプレスを仕掛けボールを奪取。こぼれ球を拾った土信田がドリブルでカットインすると、コントロールシュートをゴール右隅に沈めて0-1。終盤に大きな先制点が入る。先に仕掛けながら失点を喫したクリアソンは縦に長いボールを増やして攻め込むが、駒澤の守備は一切動じない。87分、駒澤が自陣でのボール回収からロングカウンターを発動。右サイドからアタッキングゾーンに攻め込み、ゴール前の競り合いのこぼれ球を拾った島崎が押し込んで0-2。終盤の立て続けの得点で駒澤が試合を一気に決めてしまう。後半ATのCKでは岩舘をゴール前に上げてのパワープレイに出るが、駒澤の守備が失点を許さずに試合終了。駒澤がシャットアウトでクリアソンを下し、決勝戦進出を決めた。
駒澤の勝負強さがこれでもかというほどに表れた試合だった。圧倒的に攻め込んだ時間帯は無かったが、ボールに対して常に厳しくアプローチし、簡単に主導権を握らせず。サイドでは何度かクリアソンの瀬川への対応に苦しんでいたが、クロスボールに対しては曖昧な対応がなく、シンプルに跳ね返すことができていた。0-0のまま我慢する時間が続いたが、クリアソンが選手交代でサイドをより押し上げようとしてきたところに対して厳しいプレスをかけ、ワンチャンスで決めきった先制点の場面は、泥臭いながらも駒澤らしい得点。その後はクリアソンがシンプルな縦のボールを増やしてきたが、駒澤にとってセンターラインでの肉弾戦はむしろウェルカムだったのではないか。その後の追加点への流れも含め、駒澤にとって大好物の展開になった。個人的に駒澤の試合を観るのは結構久しぶりだったのだが、毎年のように主力が入れ替わる中、ストロングスタイルを貫きつつ結果も出し続けていることについては本当に見事というしかない。中でも印象に残った選手は、右SBの桧山とサイドアタッカーの島崎の2人。桧山は攻撃センスもさることながら、中に入れるボールの蹴り分け方が多彩。また島崎はサイドから内側に入ってきてゴール前に何度も顔を出し、チームの2点目も挙げる大きな働きをしていた。変わらないスタイルの中に、このような独特なセンスを持つ選手が入ってくるからこそ、駒澤の強さが維持されているのかなと感じる。クリアソンは自分たちの武器が何かをしっかりと理解し、そこを生かしたサッカーでゲームを一定程度支配することはできていたが、何度かあったチャンスを決めきれずに先制できなかったことで少しゲームが難しくなってしまった。後半の選手交代で3バックに変更したのは瀬川のポジションをより攻撃的な位置に上げることが目的だったのではないかと思うが、システムや立ち位置の変更を伴う2枚替えを続けた直後に失点してしまった。守備の要でもある井筒を下げた直後だっただけに、守備対応が定まらないところに付け込まれてしまった印象は否めなかった。選手を代えて前がかりになった矢先に自陣の守備が軽くなるというのはありがちなこととはいえ、関東リーグ優勝やその先にある地域CLを目指すならばきっちり潰しておくべき課題。今季の関東リーグをどの程度観に行けるかは分からないが、新戦力のフィットもこれからだろうし、機会があればクリアソンはもう一度観てみたいと感じる試合だった。