この週末、FC東京は大分とのアウェイ戦のため、ちょうど開幕節を迎えるJFLの気になっていたカードを観に行くことにする。今季よりチーム名を「東京武蔵野シティFC」から改めた、「東京武蔵野ユナイテッドFC」のホームゲームだ。今年1月、東京武蔵野シティFCと、関東1部のTOKYO UNITED FCの運営法人が提携し、新たな運営会社のもと両チームが共同で運営されることが発表。JFLの武蔵野には東京ユナイテッドの選手が合流してチーム名も変わり、東京ユナイテッドは完全に社会人チーム化される整理となった。「合併」という表現は正確ではないかもしれないが、東京ユナイテッド側にとっては地域CLを経ずしてJFLのステージに上がることができたことになる。この眼の付け所はさすが東大と慶應大のOBクラブという気がするが(笑)、武蔵野の(特に古参の)ファンにとっては、ちょっと受け入れるのが難しい出来事だったのではないかと思う。そういったものも含めて、武蔵野のファンがどういうリアクションをするのかに興味があり、武蔵野をチョイスした次第だ。今週末は天気が非常に良く、気温も3月とは思えない暖かさ。武蔵野でサッカーを観るには絶好のコンディションだ。事前に三鷹駅で昼食の買い物を済ませていく。去年までは試合日に駅のコンビニの店員さんが武蔵野のTシャツを着ていたり、駅北口のバス乗り場にチームの幟が立っていたりしたような記憶があるが、今日はそういった様子は無し。こういうのも運営会社が変わった影響だろうか。到着した武蔵野陸上競技場は、感染症対策のため間隔を空けなければならない状況ながらお客さんがしっかり入っており、屋根の架かる中央部に着席できそうなスペースは無し。天気も良いので、ビジター側の陽が当たる席で観る。武蔵野のスタメンを見ると、武蔵野シティ組の方がやや多い印象だが、香西・日高・伊藤(光)らの東京ユナイテッド組も名を連ねていて、やはり新鮮味のあるラインナップだ。
前半はアウェイの青森が支配。ボランチの差波がCBとほぼ同じ低い位置まで下りてきて起点となり、代わりに両SBが高いポジションを取るスタイルでボールをサイドへ展開していく。13分、青森はその差波を起点に左サイドを押し込むと、深い位置まで攻めあがった菊池の速いクロスにニアの坂東が足を出してコースを変え、これが決まって0-1。青森が狙い通りの形で先制に成功する。ビジター側の座席は青森サポーターの来場自粛が呼びかけられている状況ながら大きな拍手が上がり、「ニュートラル」な立場で観に来ているサッカーファンの多さを感じさせられる。武蔵野はCKなどのセットプレイ時に金井が左足で鋭いクロスを度々入れるものの、流れの中からの決定機は無し。0-1のまま前半終了。武蔵野にとっては流れを変える何かが必要な状況だ。すると51分、武蔵野は波状攻撃で青森を押し込み、後半から本田に代わって投入された伊藤(大)がPA内の左から中央へクロス。味方に合わせるのを意図したクロスに見えたが、これがDFに当たってコースが変わると、ループシュートのような弾道となったボールにGK・廣末が反応しきれず、ゴールに吸い込まれて1-1。武蔵野が後半最初の自分たちの時間帯でタイスコアに戻す。後半から強くなってきた風の影響もあってか、青森は前半のようなテンポの良いパス回しが影を潜めてしまった。しかし64分、青森は差波を下げて仕切り直しを図ると、71分には武蔵野のCKのこぼれ球を拾ってロングカウンターが発動。フリーとなった坂東が1人で運んでシュートまで持ち込むが、ギリギリのタイミングで戻ってきた鈴木(裕)がブロックし、青森は勝ち越しのビッグチャンスを生かせない。すると80分、武蔵野は中央で楔のパスを受けた飯島が、DFラインの裏に抜ける動きを見せた田口への絶妙なスルーパス。これを受けた田口がやや遠い距離ながらゴール右隅にシュートを沈めて2-1。試合終盤で武蔵野が逆転に成功する。悪くない内容ながらビハインドを背負う形となった青森はパワープレイに移行。逆転を許す前に投入していた萬代と行武の2トップに運命を託す。そして後半AT、青森は左サイドの唐澤の長いクロスが強風に乗ってぐんぐんと伸び、ゴール前の行武が僅かに頭でコースを変える。これがゴール右隅に決まり、2-2の同点。土壇場の同点弾に武蔵野のスタンドは大きくどよめいた。ほどなくして試合終了のホイッスル。武蔵野にとっての新チーム初戦となるJFL開幕節は、勝点「3」を目前で逃してのドロー決着となった。
終わってみれば、最後の最後まで展開の読めない大接戦だった。JFL開幕節の試合として、エキサイティングで良い試合だったのではないだろうか。アウェイの青森は前半の試合運びが見事だった。ボールを容易に手放さず、低い位置から丁寧に組み立てる意図を見て取ることができた。武蔵野もある程度高い位置からプレスをかけにいく姿勢は見えたが、それを差波が上手くいなしながら起点となり、試合の主導権を握る役目を果たしていた。差波は明治大学からJ1・仙台に加入した経歴を持っている選手で、自分も何度か観たことはあるのだが、正直そこまで鮮烈な印象は残っていなかった。ただ、このカテゴリでプレイすると存在感が際立つ。両SBの攻撃参加を促しつつ先制点の起点にもなり、抜群の存在感だったと思う。後半に入ってからは不運な失点も絡んで武蔵野が息を吹き返し、一時は逆転を許したが、75分に坂東・山田の2トップを萬代・行武にセットで交代していたことが吉と出た。後半の強風にはやりにくさもあったと思うが、終盤になってシンプルに中へボールを放り込むようになってからは、その風を味方につけることができていた。同点弾を叩き込んだ行武は明治学院大学の在学中に一度だけ観たことのある選手で、空中戦が得意なのは何となく覚えていた。強みを生かした得点だったと思う。前半までの戦い方と異なる「プランB」をしっかり準備していたという点も含め、Jリーグの指揮経験がある安達監督の手腕による勝点奪取ともいえた。ホームの武蔵野は新チームでの記念すべき初戦だったが、残念ながら勝利ならず。ただ、後半に入り伊藤(大)を投入してからはボールが回るようになり、内容はかなり改善されていた。田口の2点目の場面も、飯島の縦パスからの一連の流れが見事だったし、今後更に連携が深まれば面白いチームになるかもしれない。試合運営については、スタジアムMCの方が変わっていたり、物販のラインナップが多く揃っていなかったり、枝葉末節の部分に関する多少の違和感はあったが、ストレスには感じなかった。試合後の選手挨拶でもホーム側スタンドから拍手が上がっていて、昨季までの「武蔵野らしい雰囲気」が変わっていなかったのは、少し嬉しかった。今季のJFLは個人的な「推しチーム」である刈谷もいるし、楽しみなシーズンになりそうだ。