カタールでのACL集中開催のため海外遠征していた東京は、グループリーグこそ突破したものの、決勝トーナメントの初戦で中国の北京国安に0-1で敗れ、ベスト16で敗退。残念ながらクラブ初のACLベスト8進出の壁を破ることはできず、志半ばでの帰国となった。中2日での試合が続く過酷なスケジュールの中、ディエゴの負傷離脱などのアクシデントにも見舞われつつ、メンバーの入れ替えをしながら戦い抜いての結果であり、自分はこの成績には何の不満もない。チームが無事に帰国してくれただけで充分だ。今節は11/18の仙台戦(A)以来のリーグ戦であり、ホームゲームも久しぶりの開催。それまでの日程が相当過密だったこともあり、飛田給からの道のりも心なしか懐かしく感じる。今季の残り試合は、年内のリーグ戦2試合と、年明けの1/4に日程変更されたルヴァンカップ決勝のみであり、リーグ戦はルヴァンカップを見据えた「調整の場」になることを長谷川監督も明言している。新型コロナウイルス感染拡大防止のため、海外からの渡航者・帰国者には原則的に14日間の自主隔離が求められる中、スポーツの国際大会や合宿のために海外渡航した選手に限り制限が免除される「アスリートトラック」の特例がACL帰りの選手にも適用されることとなり、チームは帰国後すぐにトレーニングを再開できたものの、ACLで出ずっぱりだった選手たちは一様にメンバー外。帰国してまだ1週間も経っていないことを考えれば致し方ないことだ。今日の試合は、ACLで比較的出場時間の少なかった選手、そして遠征に帯同しなかった若手主体で試合に臨むことになる。対戦相手の広島は、家庭の事情でブラジルに帰国したレアンドロペレイラ以外はほぼベストメンバーといって差し支えない陣容。贔屓目に見ても東京の劣勢は免れない試合になりそうだが、どこまで持ちこたえられるだろうか。
前半、開始早々に広島が猛攻を見せる。3分、右サイドの浅野からのクロスにドウグラスが競り勝ち、完璧なヘディングシュートを放つが、これは波多野が好セーブ。林の負傷離脱に伴ってACLでもフル稼働した波多野だが、今日も彼のセーブに頼ることになりそうだ。広島の攻勢は続き、15分にゴール前で混戦となり押し込まれそうになるが、東京が人数をかけた守備でどうにかピンチ脱出。19分にも青山のシュートのリフレクションがクロスバーを直撃、23分には茶島のクロスをドウグラスにまたしても頭で合わされるが波多野の正面を突くなど、運も辛うじて味方してくれている状況だ。東京はとにかく最前線のアダイウトンにボールを入れて一縷の望みを託すしかないが、今節ばかりはもう仕方がない。たまにアンカーの品田が気の利いた持ち運びで失地回復してくれるのも救いになっている。劣勢には間違いないが、完全に防戦一方というわけでもないまま、どうにか0-0で前半終了。広島の側にとってみれば、終始優勢に進めながら1点も取れなかったのだから、嫌な気分かもしれない。後半に入り55分、広島は茶島に代えて柏を右サイドに投入。城福監督がいよいよ痺れを切らして先に動いてくる。長谷川監督も即座に田川を下げて右サイドに紺野を投入。紺野はリーグ戦では久々の出番だ。両チームにとって勝負をかけた最初のカードだったと思うが、これが実ったのは東京の方だ。59分、紺野がハイプレスでボールを奪い、中村(拓)→三田と繋いで得た決定機は林のセーブに遭うものの、続く65分、右サイドでボールキープした紺野がハーフスペースに走りこんだ内田に浮き球のパスを通すと、内田から三田を経由して左サイドから走りこんできた中村(帆)にラストパスが通る。帆高が思いきり振り抜いたパワーシュートがゴール上隅に突き刺さり1-0。遂に東京が均衡を破る。よもやの失点となった広島はすぐさま猛攻を開始。東京は防戦一方となるが、自陣ゴール前の競り合いも、ベテランの丹羽と久々のスタメンとなった木村が身体を張って跳ね返す。なかなかシュートチャンスを得られず苛々の募る広島は徐々にファウルも増えてきて、東京にとって狙い通りの展開だ。東京は前線に矢島を投入して収めどころを作り、撤収作業の総仕上げ。結局最後まで得点を許さず試合終了のホイッスル。手負いのメンバー構成だった東京が1-0のクリーンシートで逃げ切りに成功した。
出場機会に飢えていた選手たちによる会心の勝利だった。前半からひたすら我慢を強いられる展開だったが、失点だけは許さずに耐え続けたことで後半に流れが巡ってきた。紺野の投入がターニングポイントになったと思う。紺野のハイプレスからボールを奪った59分のチャンスは得点にこそならなかったが、この試合で初めてファストブレイクが成立した場面。このチャンスで、選手たちも「いける」という空気になったのではないだろうか。紺野は先制点の場面でも意表を突いた浮き球パスで起点となっており、勝利の立役者の一人といって間違いない。得点を挙げた帆高も素晴らしい働きぶりだった。広島が柏を右サイドに投入してきたのは、対面となる帆高の疲労を狙っての戦略だったように思えたが、結果的には帆高が90分間走り負けずに柏を完封。それどころか決勝点まで挙げてしまう活躍ぶりで、文句のつけようがない。試合後のヒーローインタビューで「ようやくチームの一員になれた」と語っていた帆高だが、左右両サイドバックをこなせるユーティリティ性も含め、とっくにチームに不可欠な存在だ。他にも褒めたい選手はたくさんいるが、敢えて挙げるならば、34歳の丹羽と19歳の木村の年齢差があるCBコンビか。前半こそ相手選手をフリーにしてしまう場面が散見されたが、リードを奪った後の守備は安心して観ていられた。木村は高身長を生かして空中戦で跳ね返すことができていたし、丹羽はベテランらしい読みの鋭さを見せるだけでなく、スタンドまで届くような大声でチームを鼓舞し、精神的な支えになっていたと思う。ちなみにこの試合、東京はスタメン11人中6人、ベンチ入りを含めれば18人中10人がFC東京の下部組織出身(もしくは現所属)という、近年ではなかなかお目にかかれないメンバー構成だったことも書き記しておきたい。その年齢分布も、ベテランに近い三田から、U-18所属の大森までと幅広く、FC東京の育成の力を示した一戦でもあった。今季はU-23チームがJ3への参加を見合わせるなど、特に若手選手にとって難しい環境に置かれたシーズンだったと思うが、そんな彼らにとっても今日の勝利は大きな報いになったのではないだろうか。シーズン全体で見ればただの1勝に過ぎないかもしれないが、スタジアム現地で見届けたFC東京ファンにとっては、クラブの未来にポジティブな思いを馳せることのできる、実に感慨深い勝利となった。