ゼットエーオリプリスタジアムで本日よりスタートした、全国地域サッカーチャンピオンズリーグの決勝ラウンド。先に行われた第1試合では、関西1部王者のFC TIAMO枚方が5-0の大差で北海道十勝スカイアースを下し、JFL昇格に向けて大きなアドバンテージを得た。続いて行われる第2試合は、東海1部のFC刈谷と、関東1部の栃木シティFCの対決。第1試合終了後、観客はスタンドから一旦退場して、再び受付で体調管理チェックシートを提出し、メインスタンドの応援エリアに入場という段取りを踏む。自分は悩む必要もなく、刈谷の応援席を選択だ。今季の刈谷は、東海1部リーグが新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けてリーグ戦が全て中止となり、地域CL出場チームを決定するトーナメント戦を制しての大会出場となっている。通常のリーグ戦を一切行わず大会に入っただけに、試合経験の少なさが不安要素というのが専らの下馬評だったように思うが、1次ラウンドで沖縄SVや福井ユナイテッドといった列強と同居しながら、2勝1分で首位通過。特に3戦して未だ無失点という鉄壁の守備で勝ち上がってきており、ここまでは順調に来ているといえるだろう。一方の栃木は、地元開催だった1次ラウンドを3戦全勝で突破し、自信満々で乗り込んできているはず。初戦の持つ意味は大きいだけに、どのような試合展開になるか注目だ。平日開催なので観客数は200人台と少ないが、両チームの応援席にはサポーターが駆け付け、手拍子で雰囲気を作っていた。
試合は刈谷がややボールを多く支配しながら様子を窺う立ち上がり。栃木のオーソドックスな4-4-2に対して、3-4-2-1で中盤の枚数が分厚い分、刈谷が中盤で優位に立つのは合点のいく展開だ。中野や佐藤といった、本職がFWの選手が中盤で起用されているのもこれまでとは異なる取り組みに見える。他方、栃木は自陣にしっかりとブロックを築き上げ、そう簡単にはボールを中に入れさせない。大きな動きの無いまま飲水タイムを挟むと、徐々に刈谷が栃木の陣内を押し込みはじめる。特に1トップの福家のスプリントの速さは特徴的で、24分にはその福家がドリブル突破でシュートまで持ち込む形を作る。32分、刈谷は相手陣内のFKがゴール前でスクランブルを生み出し、シュートがクロスバーに当たる決定機を作り出すが、栃木が必死の守備でゴール前からボールを掻き出し、先制点を許さず。その後は互いにチャンスが生まれないままHTを迎える。前半に見せ場を作ることのできなかった栃木は、後半の頭から藤田と古波津を投入。その効果もあってか、サイド攻撃から54分に古波津、57分に田中(輝)がそれぞれフィニッシュに持ち込むが、いずれも刈谷の守備を完全に崩し切ったとまではいえず、得点の匂いは漂ってこない。72分、刈谷はここまで豊富な運動量でチームを引っ張った福家がベンチに下がってお役御免。刈谷はこれまでにも増してロングボールを蹴りこむ場面が増えていく。風がやや強く吹いており、刈谷が風上だったこともあって、ラフなボールでも相手のミスを誘発できる可能性があるという狙いもあるのだろう。85分を過ぎて試合が終盤に入ると再び刈谷が押し込む流れとなるが、栃木も守備だけは集中を切らさず、最後までゴールを守り切った。結局、ピッチ上に吹く風の強さとは対照的に、試合内容は「無風」のままタイムアップ。両者勝点「1」を分け合う結果となった。
両チーム共に、完全ノーリスクを徹底し続けた90分間。「勝ちたい」よりは「負けたくない」という気持ちの方がより伝わってくる試合内容だった。個人的には、その気持ちは充分理解できる。第1試合の十勝の大敗を観て、その思いはより強化されたはずだ。ここで十勝と同じような負け方をすれば決勝ラウンド初日にして早くも趨勢が決まってしまうだけに、地域リーグを代表するチーム同士、ここはセーフティに勝点「1」でも良しとすることを選択したということなのだろう。どちらかといえば、刈谷の方に勝つチャンスがあった試合だった。試合を通じて唯一のビッグチャンスは、前半の刈谷のセットプレイによるもの。あの場面で決まっていたら、全く異なる試合展開になっていたかもしれない。攻撃では前述のとおり、福家の存在感が抜群で、その分中盤に余裕が生まれていたように見えた。後半のロングボール主体の戦い方も、いわゆる「エンターテインメント性」とは無縁のものだったが、娯楽としての楽しさを競う大会ではないし、風が吹く条件を考えれば妥当な戦法。勝点「1」は物足りなさも残るだろうが、最低限の結果を出したといえるのではないだろうか。一方の栃木は、運動量の豊富な吉田をスタメンに起用して前線からプレスをかけにいったが、刈谷が割り切って蹴ってきたこともあって思うようにプレスがはまらず、肩透かしを食らってしまったような展開だった。後半に投入された藤田もそこまで目立った仕事はできず苦しんだが、守備に関しては身体を張ってしっかりと守れていた。決定機をほとんど作れなかったにも関わらず、最低限の勝点だけは得られたのはプラスに捉えて良いかもしれない。2日後に行われる第2日では、刈谷が枚方と、栃木が十勝とそれぞれ試合を行うことになる。今日の2試合を観るまでは枚方と栃木が実力的に抜けているのかなと個人的に思っていたが、刈谷も充分に食い込めそうな試合運びを見せていただけに、次の刈谷と枚方の一戦は、決勝ラウンドの行方に直結する大きな意味を持つことになりそうだ。自分はこの第1日だけの観戦予定だが、残り2日の展開に大いに期待したい。また、未曽有の感染症が猛威をふるい、様々な競技の大会で無観客開催が目立つ中、観客を入れての試合を認めてくれた関係者の方々の尽力にも改めて感謝したい。来年の地域CLは「いつもどおり」に開催できることを願いつつ、スタジアムを後にした。