東京行の「はやぶさ」で向かった仙台の街並みは、夕闇に包まれていた。八戸でJ3のデーゲームを観戦し、新幹線で仙台に移動しての本日2試合目の観戦。この季節のナイトゲームともなれば、それなりの寒さ対策を講じての観戦は必須だが、なにせ250kmも北の八戸からハシゴしてきているだけに、仙台の気温ですら心なしか暖かく感じてしまう。通勤客で混み合う地下鉄に乗り換えて泉中央に向かい、ユアスタに到着。今節は、FC東京にとってACL遠征前最後となるリーグ戦。ベストメンバーで臨むことのできる年内最後のリーグ戦になる可能性があり、しっかりと現地で見届けたかったので観戦スケジュールを立てた次第である。今節はもうひとつ大きなトピックがある。7月の鹿島戦(A)で骨折の重傷を負い、戦線を離脱していた東が戻ってきたのだ。発表されたスタメンにもいきなり名を連ねており、期待の膨らむところだ。ディエゴ・渡辺・林がメンバー外など不安な要素はあるが、GKの児玉が波多野に代わって初スタメンを飾るなど、注目点も多い試合だ。対するホームの仙台は現在最下位に沈んでいる。新型コロナウイルスの影響でクラブの財政が悪化、資金繰りに苦しんでいることが報じられていたが、更には所属選手の不祥事での対応で追い討ちをかけられ、現場は泣きっ面に蜂という状態だ。そんな仙台にとって救いとなる要素は、前節のアウェイ・G大阪戦で4-0と圧勝を飾ったこと。得点源の長沢が調子を上げており、今節も得点が期待される。仙台は今季のホームゲームで未だに勝利が無いだけに、今節こそ地元で良い姿を見せたいはずだ。前節、アウェイで名古屋に0-1で敗れた東京にとっては、連敗は避けたいところ。
試合開始すぐに気が付いたのは、東京が4-1-2-3の布陣で入ったこと。9月のC大阪戦(H)以来、攻守にバランスの取れた4-4-2をベースにしていた東京だが、このタイミングでシーズン当初に戦っていたシステムへ戻したことになる。先にチャンスを掴んだのは東京だ。9分、左サイドでのレアンドロのキープから安部がボールを引き取って縦に突破し、折り返しに内田が飛び込むものの惜しくも合わず。これは惜しかったが、15分、今度は永井が左サイドのハーフスペースに侵入し、折り返しをレアンドロがダイレクトで蹴りこんで0-1、先制に成功。ここまではほぼ完璧に近い内容だ。仙台も20分にクエンカのクロスを長沢が合わせるが決めきれず、それ以外は東京がほぼ中盤で潰せている内容。前半終了間際の45分には安部のロングパスで内田が裏を取り、綺麗なトラップからフィニッシュへ持ち込むが、スウォビィクが素晴らしいセーブで防ぎ、追加点はならず。内容で圧倒した割には少し合わない1点差で前半を終える。後半、仙台は目立っていなかった佐々木を下げて兵藤を中盤インサイドに投入。すると47分、兵藤が左サイドを縦に持ち運び、クロスボールを長沢がヘディングで叩き込んで1-1。仙台は中盤の構成変更がものの数分で実り、同点に追いつく。急にボールが回らなくなった東京は、長沢にボールを集める仙台のシンプルな攻撃に苦戦。しばらく耐える時間が続いたが、64分、東京は左サイドのレアンドロのFKのこぼれ球を小川がヘディングでゴール前に繋ぎ、これを髙萩が押し込んで1-2。ゴール至近距離で髙萩が完全にフリーだったのが不思議なレベルだが、とにもかくにもセットプレイで勝ち越したのは大きい。仙台は飲水タイム明けで赤﨑・松下と攻撃的なカードを投入。同じタイミングで東京は東と永井が退き、徐々に撤退戦の構えを見せるが、ここからは仙台のワンサイドゲーム。セカンドボールを拾われる時間が続く。84分、仙台は遠い距離でフリーとなった松下が強烈なパワーシュートを放つと、これがDFラインの隙間をすりぬけてゴールに突き刺さり、2-2の同点。東京はあと少しで撤収完了が見えていただけに悔やまれるが、とにかく残り時間は勝点キープが至上命題だ。86分には仙台の左サイドからのクロスに赤﨑がフィニッシュに持ち込むが、児玉のセーブで逃れ、失点は免れる。ATにはオープンな展開から双方にチャンスがあったが、いずれも両GKのビッグセーブでピンチをしのぎ、このまま試合終了。2-2のドロー決着となった。
アウェイでドローなので悪い結果ではないが、前半と後半の内容にあまりに落差がありすぎて、些かモヤモヤする結末だ。前半は素晴らしい内容だった。システムを4-1-2-3に戻した理由はよく分からなかったが、ハードワークのできる東が戻ってきたことで、中盤で攻守に圧倒することができたことは確かだ。選手同士が適切な距離感を保ちながらプレスをかけに行くことができていたし、3トップの特性を生かしてサイドをしっかり攻略できていた。チャレンジ&カバーの意識も徹底されているように見えた。髙萩・東・安部の中盤トライアングルは、このシステムを遂行する上で絶対に欠かせない3人だと感じた。内田もゴール前で複数回見せ場を作ったが決めきれず。徐々にチームの中で存在感を増しつつある内田だが、あとはゴールという結果が欲しいところだ。チームとしては、圧倒出来ていた前半でたった1点しか奪えなかったことが後半に試合を難しくしてしまったかもしれない。仙台がHT明けに兵藤を投入してきて、その兵藤がすぐにアシストをして同点になったことで、その「難しさ」のハードルはますます高くなってしまった。仙台が長沢のポストプレー中心としたシンプルな攻撃をしてきたことで、東京の選手間の距離のバランスが失われ、仙台にペースを明け渡してしまった。セットプレイで一度は勝ち越しに成功し、どうにか撤収に向けて準備を進めることはできたが、間延びしてきて適切な距離感が失われ、それを埋めようとして無謀なチャレンジが生まれ、裏を取られて走らされる場面が増え、足が止まり、終盤はブロックを保つのに精一杯で、ボールに食らいつくことができなくなった。松下の同点弾を浴びるまでの流れはこんな感じだったのではないか。無論、得点自体は松下のシュートの質を褒めるべきだが、東京からすれば、2-1にした以上は身体を張ってでもクローズしなくてはいけなかったはずで、シュートコースを空けてしまったことが大問題。内容的には仙台に今季ホーム初勝利を献上していてもおかしくない展開だった。2失点は喫したが、終盤のピンチを救ってくれた児玉のビッグプレーには感謝したい。ここまでのチームでの出番の少なさを思えば、充分な出来だったと思う。ACLの関係で、12月に残ったリーグ戦2試合はまともにチームを組めるかも不透明なだけに、今節はどうにか現地で見届けたかった。結果的には収穫も課題も良く表れた試合だったが、観られて良かったと思う。ある程度の満足感を胸に、ユアスタを撤収。仙台からの上り最終「やまびこ」に乗り、タフな移動の続いた1日を終える帰途に就いた。