唐突だが本日は東北に来ている。FC東京のアウェイ・仙台戦が平日ナイトゲームに組まれ、仕事を休みにして行くことにしたのだが、同日にJ3の試合も組まれていることを知り、すかさず日程をチェック。すると、ちょうど未訪問の八戸のホームゲームが13:00KOで組まれているのを発見。八戸のホームスタジアムは照明設備が無いため、平日でもデーゲームで開催せざるをえないのだろう。試合後の仙台への移動も問題なさそうだったため、新幹線におよそ半額で乗れる「お先にトクだ値スペシャル」で八戸までの指定席を確保し、日帰りでの弾丸ハシゴ観戦予定が固まった次第である。早朝の「はやぶさ」で八戸に向かい、駅から離れた中心街を少し散歩してから市営バスに乗り、最寄りのバス停から徒歩5分ちょっとで初訪問の「プラスタ」ことプライフーズスタジアムに到着。平日の昼ということもあり、スタジアム近辺は閑散。今日これから公式戦があるという感じの雰囲気には見えないが、これはもう仕方が無い。既にリーグ戦は終盤だが、J3は今季初観戦。まずはJ3の状況を整理しておこう。現在は秋田が勝点「65」で首位を独走しており、J2昇格をほぼ手中に収めている状況。残る1枠は混戦となっており、現在は長野が勝点「49」で2位につけているが、「46」で熊本と相模原、「44」で鳥取、「43」で岐阜と今治という具合だ。ホームゲームを戦う八戸は、現在勝点「25」で15位と低迷中。今季指揮を執る中口監督はシーズン終了後の退任を表明しており、残り試合で少しでも爪痕を残したいところだろう。対戦相手は勝点「38」で9位につける富山。まだJ2昇格の可能性は残されているが、勝点差を考えると、残り7試合を全て勝つくらいの勢いが必要だ。どちらかといえば富山の方がテンションが高い状況だといえる。
試合は立ち上がりから富山が前からボールを追い、八戸に対してさっそく圧力をかけていく。すると5分、大野のミドルシュートから得た左CKを戸高が蹴り、ニアで頭ひとつ抜け出した大野がヘディングを叩き込み0-1。富山がいきなりセットプレイで先制する。スコアの動きやすい時間帯での1点、富山の入り方から見ても狙い通りの展開だろう。更に13分、富山は中盤でのパスワークから佐々木(陽)がDFラインの裏にスルーパス。これに大野が抜け出し、冷静にGKとの1vs1を流し込んで0-2。大野は立て続けのチャンスで一気に2得点だ。ホームの八戸は積極的にいきたいところだが、富山のハイプレスの影響でなかなか前を向かせてもらえず、精度の低いパスを蹴らされて奪われ、反撃を食らっている状況である。試合が落ち着きを見せると、ようやく八戸にも余裕の生まれる時間帯。相手陣内でボールを横にずらしながらシュートコースが空くのを待つが、富山が容易にスペースを与えずに前半を終える。八戸はHT明けに新井山と丸岡の2人を投入。なかなか優位に立てなかった中盤を早々に梃子入れする。この交代は的確で、後半は八戸が高い位置から良いプレスをかけられる状況になった。60分には安藤が高い位置でボールをカットし、ゴール前の混戦のこぼれ球を前田がシュートに持ち込むなど、徐々に良い攻撃の形が見られ始める。64分、八戸は富山陣内で繋いで縦パスの出し所を探す中、PA内でのポジション争いで上形が林堂に倒され、主審がホイッスル。最初は上形のファウルというジャッジだったようだが(?)、八戸の選手たちの抗議を受けた辛島主審がメイン側の副審と協議し、林堂のファウルを認めてPKの判定。キッカーの上形がゴール左隅に冷静に決め、1-2。後半に入ってからの良い流れで1点差に詰め寄り、八戸にとっては追い風だ。富山に裏を取られる場面が何度かありながらも、HTからの登場でゲームメイクを担う新井山を中心に八戸がじわじわと追い詰める展開。88分には左から右へのサイドチェンジでサイド深くまで侵入した國分のクロスにゴール正面の新井山がフリーで詰める絶好機となるが、渾身のヘディングシュートはクロスバーに弾かれてゴールならず。スタンドは今日一番の盛り上がりとなったが、これが最後のチャンスとなり、試合終了。八戸の猛攻を受けながらも富山が1点差で逃げ切りに成功。J2昇格の望みを繋ぐ、貴重な勝点「3」を確保した。
結果的には、前半立ち上がりの2得点が最後まで大きな意味を持ち続けた。下位に沈む相手といえど何が起きるか分からないアウェイ戦、こういうシチュエーションではとにかく早い時間から積極的に行く。そういう富山の姿勢がよく表れた前半立ち上がりの展開だった。1トップの大野は先制点のきっかけとなるミドルシュートに始まり2得点をマーク。後半も虎視眈々とDFラインの裏を狙い続け、あわやハットトリックというような決定機も作るなど、途中交代するまで常に存在感を放っていた。TV中継や現場で何度か見たことのある選手で、昨季まで所属していた京都ではなかなか出番に恵まれていない印象があったが、今日のパフォーマンスはそのスケールの大きさも相まって、とても強烈だった。また、中盤2列目のクオリティも高かった。スタメンだった佐々木と平松が常に高い位置からボールにアタックし、同時に攻撃でも多くボールに絡んでいた。佐々木は大野の2点目に繋がる見事なラストパスも出しており、とても重要な働きをした。後半はその前線に交代カードを割く形となったが、武・花井・大谷がいずれも攻守にハードワークし、クオリティを維持し続けたのも逃げ切りの要因かと思う。敗れた八戸は、前半に自陣においても前を向かせてもらえず、早々に富山に流れを渡してしまった。せめて無失点で耐えることができれば違う展開もありえたが、いきなり2失点してしまっては、勝点を奪うのは容易ではない。ただ、後半に新井山を中盤の底に据えてからは、ボールを落ち着いて回せる場面が増えて、見違えるように内容が改善した。上形のPKによる1点も比較的早い時間に入り、追いつく流れはできつつあったが、その1点の直後に飲水タイムが入り、富山に一度冷静になる時間を与えてしまったのも多少は影響があったかもしれない。試合終盤はサイドの深くまでえぐれるようになり、キープレイヤーの新井山が決定機を迎えた場面はドラマを感じさせたが、それが決まらないあたり、やはり富山の方が一枚上手だったということなのだろう。平日の遠方での試合ということで、ビジター側スタンドには数人しか富山サポーターの姿が見られなかったが、選手たちはしっかりとスタンドまで足を運び、「声なき応援」に感謝の挨拶をしていた。この瞬間はサポーター冥利に尽きるものがあるだろうなと羨ましく思う。東京から来るのに時間は掛かったが、ここまで足を運んで良かったなと思いつつ、夜の仙台への移動のため、プラスタを後にした。