栃木県下野市の大松山運動公園で行われている、全国地域サッカーチャンピオンズリーグの1次ラウンド・Aグループ。大会初日の第1試合では、地元開催の栃木シティFCがブランデュー弘前を2-0で下し、上々のスタートを切った。第1試合と第2試合の間は45分程度のアップ時間があるので、公園内を少し散歩してから競技場に戻ってくると、栃木シティのファンが会場を後にしたためか、かなり観客スペースには余裕が出来ていた。後から発表された観客数は226人。地元以外のチーム同士の対戦で平日デーゲームならば、地域CLでもこんなものだろう。個人的にはゆったり観られるので、むしろありがたい(笑)。第2試合は、関西1部リーグ2位のAS.Laranja Kyotoと、北海道リーグ優勝の北海道十勝スカイアースの対戦。快勝スタートの栃木を追う上ではどちらにとっても勝点「3」が求められる試合だ。ラランジャの方は「サポーター」のような出で立ちの人はほとんどいない様子だが、十勝の方はユニフォーム着用のサポーターが10人近くスタンドに陣取っていた。
試合に良い入り方を見せたのは十勝。全体的に前からプレスをかけてショートカウンターを狙っているのはすぐに分かった。システムは4-1-4-1で、1トップに入るファビオが前線に残っているが、もう1人、右サイドの高瀬の極端に高い位置取りが目につく。JFL中心に全国リーグのカテゴリを主戦場としてきた選手だけに、ラランジャにとっては要警戒の選手だ。ラランジャのサッカーも特徴的で、とにかく無闇にラフなボールを蹴らない。全体をコンパクトに保ち、近い距離でパスを繋ぎながら全体を押し上げていく意図が見える。ただ十勝も中盤に網を張ってラランジャに繋がせず。両者決定機に乏しく、スコアこそ0-0のままだが、全体的には十勝の方が上手く運んでいる印象のまま、前半が終了する。HT明け、十勝は1トップのファビオを下げて黒川を投入。黒川は右サイドに入り、前半右サイドだった高瀬が1トップにスライドする形だ。ファビオがそれほど悪いパフォーマンスには見えなかったので、ある程度計画的な交代なのかもしれない。後半の立ち上がりはラランジャの方が良い入り方。前半からの選手同士の距離感は保ちつつ、ゴール前に枚数が揃っていればロングパスを入れる場面も見られるようになってきたものの、十勝のGK・曵地の守備範囲が広く、決定機までは至らず。0-0の緊迫した時間が続く。流れが変わり始めたのは後半飲水タイム明けから。70分、左サイドの田中がサイド深くまで攻め込み、クロスに黒川が合わせる場面を作ると、ここからサイドを押し込む時間が続く。そして76分、十勝は再び左サイドを攻め込み、戻したパスを受けた堀河が右サイドへ大きく局面を変えるフィード。これをハーフスペースまで侵入してきた黒川が折り返すと、ゴール正面に走りこんできた松尾がダイレクトでゴール左隅に叩き込み0-1。サイドを揺さぶって完璧に崩しきる鮮やかなゴールで、十勝が遂に均衡を破る。長短のパスを織り交ぜながら悪くない試合運びのできていたラランジャもここから前に急ごうとするが、十勝は自陣に退くことなく前からボールを奪いに行く姿勢を見せ、効果的なロングボールを蹴らせない。結局、十勝が最後までラランジャにパワープレイを許さず、0-1で試合終了となった。
ポリシーのあるチーム同士、非常に見ごたえのあるぶつかり合いだった。十勝は選手交代も含めたゲームデザインが完璧に機能したように感じる試合運び。前半の内容もそれほど悪くなかったが、HT明けの黒川の投入が的確だった。黒川の足の速さを生かした縦の突破でラランジャのDFラインを押し下げ、逆サイドの田中の所も深くまで攻め込めるようになったのだ。後半飲水タイム明けにサイドを押し込む流れから先制することができたのは、その象徴的な場面だといえる。試合終盤も黒川の出足の良さがハイプレスの原動力となり、ラランジャに反転攻勢を許さなかった。サイドだけでなく、後半から1トップに入って足で相手の守備をかき乱した高瀬、先制点を挙げた松尾、先制点の起点となるフィードを蹴った堀河、終始安定したセービングを見せていた曵地ー。このセンターラインが強固だったことも十勝の勝利の大きな要素であることは言うまでもない。堀河と曵地は2年前の鈴鹿アンリミテッドFC所属時代にもチームのJFL昇格に貢献した実績があるだけに、精神的な拠り所にもなっているのだろう。北海道勢といえば、地域CLでは常に「草刈り場」のような存在になっているイメージだったが、今回の十勝は面白い戦いを見せてくれそうだし、決勝ラウンドに進出しても何ら驚きのない戦いぶりだった。一方、敗れたラランジャも決して悪くない試合運びだった。スタンドから観ていても「ペア遠いぞ」「距離が遠いぞ」と、常に距離感に関するコーチングが味方同士で出ているのが聞こえたし、一方で、後半は前線に枚数さえ揃っていれば躊躇なく長いボールも蹴っており、美学に殉ずることを良しとしない姿勢も好感が持てた。GK・大野のセービングも堅実で、十勝の曵地も含め、両チームのGKが安定したパフォーマンスを見せていたことが、引き締まった試合内容を演出していたと思う。十勝は勿論、ラランジャにもまだ挽回のチャンスがあるように感じる試合だった。自分は大松山での試合観戦はこの1日目だけだが、明日以降のAグループの展開が楽しみである。大満足で大松山運動公園を撤収し、石橋から宇都宮線で帰途についた。