今年も、待望の地域CLの季節がやってきた。新型コロナウイルスの影響で大幅に狂った国内スポーツのカレンダーは、当然のことながら地域リーグレベルにも波及。春先に開幕を予定していた各地域のリーグ戦は軒並み延期に追い込まれ、リーグ戦を1回総当たりに変更したり、優勝チームをトーナメント形式にしたりするなど各地域で大会方式を変更し、夏から秋にかけての短期でスケジュールを消化。どうにか地域CLの開催にまでこぎ着けることができた格好である。参加12チームを3グループに分けて行われる1次ラウンドのAグループは、栃木県下野市の大松山運動公園が舞台。自分にとっては初訪問となる会場であり、大会初日の金曜日を狙って現地に向かう。JR宇都宮線の石橋駅から徒歩20分ほどで到着。メインスタンドは関係者のみ入場可能ということで、一般の観客はバックスタンドの芝生の上で自主的にソーシャルディスタンスを確保しての観戦。メインスタンドが非常に小さな作りのため、感染リスクを低減する上では一般観客の入場を断るのは致し方ない措置だと思うが、できれば事前のアナウンスが欲しかったかなと思う。大会初日の第1試合は、東北1部リーグの王者・ブランデュー弘前FCと、関東1部リーグの王者・栃木シティFCの一戦。どちらの地域も1回戦制のリーグ戦で優勝を果たしており、試合勘という点ではそれほど心配ないシチュエーションといえる。地元開催ということもあってか、栃木側の芝生スタンドは多くのサポーターが駆け付け、観客数は600人を超えた。平日開催にしてはなかなかの入りだと思う。
立ち上がりからピッチを支配したのは栃木。2トップは藤田と山村、どちらもJリーグで実績があるFWだ。特にJ1での経験も豊富な藤田のプレーは、やはりこのレベルだと一級品。裏への動き出しのタイミングや、楔を入れるパスの受け方が丁寧でさすがだなと思わされる。守備時にもしっかりとプレスバックをかけ、弘前に攻撃の糸口を掴ませない。中盤にはこれまた経験豊富な髙地がおり、6分に直接FKでゴールを脅かすなど、キックの質の高さは見事だ。一方の弘前は、やや守備に重きを置いた4-1-4-1の布陣。中盤インサイドの浅利はボールを運ぶ場面でちょっと存在感がある。攻撃時は両ワイドの千葉と大原がサイドでフリーとなり、ロングパスを引き出して単発ながらチャンスを窺う形。栃木が支配しているゲームとはいえ、弘前も押し返す場面は作れている。34分には弘前にチャンス。左サイドからのFKを中央で競り合い、こぼれ球を高橋がボレーで押し込もうとするがGKの正面を突き、先制ならず。互いに守備が隙を見せないまま、0-0で前半を折り返す。HT明け、栃木は藤田をベンチに下げ、吉田を投入する采配。藤田のパフォーマンスが悪いようには見えなかった分、ちょっと意外なベンチワークだったが、この交代は後でじわじわと効いてくることになる。58分、栃木はDFラインの裏に出たボールを山村がスプリントで追い、ゴールライン際で残そうとしたところを弘前の選手が止めてしまいPKの判定。勢い余って倒してしまったような印象があり、ちょっと可哀相なジャッジではあるが、PKはPKだ。キッカーの田中輝希がゴール左隅に強烈なシュートを叩き込み、栃木が0-1と先制。弘前はここまで守備が持ちこたえていただけに、勿体ない失点だ。そしてここから試合の雰囲気はガラリと変わる。栃木が守備の強度を目に見えて引き上げたのだ。とにかくボールに厳しく、徹底して繋がせない。弘前にとっては一度落ち着いて立て直したい時間なのだが、栃木は後半から入った吉田のハイプレスが強烈で、弘前は落ち着く余裕すら与えてもらえない様子だ。すると79分、弘前は自陣でボールを受けた右SBの根本が僅かに処理をためらった隙を吉田がすかさず突いてボールを奪取。そのままドリブルで突進し、GKも抜き去ってゴールに流し込み0-2。ここまでの流れを見れば、栃木にとって勝利をほぼ手中にしたに等しい追加点となった。終盤も厳しいプレスで弘前の攻撃を封殺し、タイムアップのホイッスル。栃木が貫録の勝利で地域CLの好スタートを切った。
終わってみれば、守備の強さで弘前を寄せ付けなかった栃木の完勝だった。率直な印象として、先制点が入るまでは内容にそれほど差は無かった。栃木が支配していた内容とはいえ、弘前の守備も統率がとれていたし、単発ながらチャンスは作れていた。弘前が先制していてもおかしくなかったのだ。しかし、PKで栃木が先制してからは実力の差が歴然として表れた。それまで以上にボールホルダーに対して執拗にプレスをかけ、ボールを繋がせず、徹底的に起点を潰した。特に後半からピッチに立った吉田の運動量は目を見張るものがあった。吉田は昨季までいわきFCに所属していた選手だが、フィジカル重視のチームに所属していただけあって、さすがだなと思わせる働きぶりだった。今日の栃木はスタメン11人のうち10人がJリーグ経験者で占められていたが、「勝負どころを分かっている」という意味で、経験の差が出た試合といえるのではないだろうか。敗れた弘前は、守備は決して悪くなかっただけに悔しい敗戦だった。試合序盤こそ栃木の強力なアタッカー陣に苦しめられていたが、ある程度落ち着いてからはほとんど形を作らせていなかったし、攻撃でも中盤インサイドを務める浅利を中心とした中長距離のパスの精度は悪くなく、両サイド深くまで攻め込む場面も作れていた。それだけに、PKで先制点を許してしまったのは痛恨だった。個人的にはPKのジャッジは少し酷なように思えたが、こういう判定ひとつで流れがガラリと変わってしまうのが地域CLという舞台の怖さ。リードを許してからの弘前は栃木のプレスに苦しみ、最後までサッカーをやらせてもらえなかった。この試合に関しては完敗という他にない。地域CLは短期間の連戦で一気にかたをつける方式なだけに、敗れた弘前にとっては「切り替える」しか術はないだろう。スタンドへ挨拶に向かう弘前の選手たちは一様に前を向き、明日の試合に向けて早くも気持ちを切り替えているようにも見えた。