この週末、当初はもちろん東京の試合を観に行く心づもりでいたが、アウェイ・川崎戦のビジター席チケットは予想どおりの「瞬殺」で買えず。代わりといっては失礼になるが、今季初めてJFLを観に行くことにした。武蔵野陸上競技場での武蔵野×マルヤスという対戦カードである。なんだかんだで年1回の頻度で訪れている武蔵野陸上も、今年はさすがに無理かなあ・・・と思っていたが、幸いなことにタイミングが合った。今季のJFLは新型コロナウイルスの影響で第15節までの前半戦が全て中止となり、第16節から第30節のみの1回戦制。全15試合の短期決戦で優勝を争うことになっている。ホームの東京武蔵野シティFCは現在12位。中位が混戦になっているとはいえ、昨季4位と奮闘したことを考えれば、もうひとつ勢いが欲しい。今週は水曜日に天皇杯の筑波大学戦で120分間の延長戦を戦ったばかりで(2-3で敗退)、多少疲労が残っているかもしれない。今年8月にJリーグ百年構想クラブから脱退してJリーグ参入を断念した経緯もあり、どういうモチベーションで戦っているのかも少し気になる。対戦相手のFCマルヤス岡崎は、現在勝点「8」の15位。多くのJリーグ経験者が在籍しているにも関わらず、下から2番目という順位に沈んでいるのはちょっと良く分からない。今季はJリーグと同様に降格制度が無いため、残留争いというものは存在しないが、本来ならば極めて降格の危険性が高いポジションだ。このまま下位に甘んじるのは不本意だろう。マルヤスも水曜日に天皇杯でHondaFCと戦っており(0-1で敗退)、中2日という条件は武蔵野と同じだ。
試合の立ち上がりは縦にラフなボールが多く、両チームが入りの勢いで1点を奪えるか様子を見る展開。どちらも守備がしっかり跳ね返す。特にマルヤスのDFラインには飯田と多々良の元・松本山雅コンビが揃っており、ここは盤石の手堅さ。空中戦なら望むところだろう。武蔵野は3-4-2-1のシステムで、4バックで戦っていた昨季と比べればやや守備を重視している印象。ボールを奪われてからの戻りながらの守備には安定感がある。攻撃時はサイドを中心に攻め、大きなサイドチェンジも織り交ぜながら押し込んでいくようになるが、決定機までは至らない。一方、マルヤスのシステムはここ最近なぜか観る機会の少ない3-4-1-2。どういう組み立てなのか興味を持ちながら観ていたが、DFラインからしっかり持ち運び、縦に楔を入れるパスコースを探している感じ。中盤ではトップ下の江口が随所に顔を出してボールを引き出す構えを見せるが、武蔵野も5バックを敷いてスペースを与えず、苦し紛れの縦パスは簡単にプレスで潰される。前線にはJ経験者の津田という分かりやすいターゲットが待つが、そこにボールが入らない。前半の終わり頃は再び武蔵野が押し込む時間を作ったが、結局0-0で前半終了。この時点ではやや武蔵野優位と思える内容だったが、後半に入ると徐々にマルヤスが流れを掴む。その中心となったのはトップ下の江口だ。ここまで繋ぎの役割に徹している印象だったが、62分に右CKのショートコーナーでのリスタートから左足で鋭いクロスを供給。これは惜しくも味方に合わないが、先制点を呼び込む雰囲気を作るには充分だった。マルヤスベンチも「吹き始めた風」を見逃さない。71分、途中交代で右WBに投入された小野が豊富な運動量で右サイドから中央に近いエリアまでカバーし、武蔵野をゴール前に押し込めていく。87分、マルヤスは途中出場の水野の右からのクロスにファーサイドの伊藤が詰めて完全にフリーとなるが、シュートはGK・西岡がストップ。この試合最大の得点チャンスを防ぎ、このままスコアレスか・・・という空気がスタンドを覆う。しかし後半AT、マルヤスは途中出場の松本が空中戦で競り合い、こぼれ球を阪本が拾ってシュート。これはブロックされるが、更にこぼれ球を拾った江口がPA内右から再び持ち込んで左足を振り抜くと、シュートがゴール右隅に突き刺さり0-1。土壇場でマルヤスが一歩前に出た。ほどなくして試合終了のホイッスルとなり、マルヤスがアウェイで貴重な勝点「3」を持ち帰ることに成功した。
マルヤスが粘り強く攻め続けて最後に1点をもぎ取る、劇的な試合だった。正直なところ、途中まではマルヤスが得点を奪うイメージをなかなか持てない試合内容だった。特に前半は縦パスを思うように入れられず、武蔵野の守備の安定ぶりがむしろ目立っていた。しかし、後半になってから徐々に風向きが変わっていったように思う。その中で躍動したのが、後半ATに劇的な先制点を挙げた江口だ。DF登録の選手ながら、トップ下のポジションで躍動していた。コンスタントに出番を得られているわけではないようだが、それを感じさせないほど左足での質の高いクロスを次々に入れていて、仮に0-0のまま終わっていたとしても十分印象に残るレベルのパフォーマンス。更には試合終了間際に強烈なシュートを決め、名実共にこの試合の殊勲者となった。身長は163cmと小柄だが、ピッチの至るところに顔を出す献身性もあり、間違いなくチームの攻撃を牽引する存在だった。まだ19歳と年齢も若く、今後の活躍が楽しみな選手だ。選手交代も的確で、71分に投入された小野はサイドを押し込む献身性を見せていたし、88分に投入された松本は、後半ATのポストプレーで決勝点の起点となる働き。北村監督の「勝負勘」が冴え渡った。今季リーグ戦で未だ2勝という難しい戦いとなっているマルヤスだが、チームの持つポテンシャルを垣間見たような気のする一戦だった。一方、敗れた武蔵野は、時間が経てば経つほど受け身になってしまったのが最大の敗因だったように思う。前半はサイドチェンジを多用しながら相手を揺さぶる攻撃が出来ていたが、後半に自陣を押し込まれる場面が出てくると、ほぼロングカウンターしか攻撃の手段がなく、一方的に攻められる展開となってしまった。3バックのシステムで守備はある程度機能していたといえるが、その分攻撃を犠牲にしてしまっているともいえるだけに、匙加減の難しいところ。中2日という日程も終盤の疲労に影響したかもしれないが、条件はマルヤスも同じであり、言い訳にするには難しいところだ。石原などの攻撃のスイッチを入れられる選手は揃っているので、今はチームとして戦い方を成熟させていく段階なのかなと感じた。リーグ戦は残り4試合だが、試合数が少ないぶん中位は勝点差が詰まっており、両チーム共に浮上の可能性は残されている。マルヤスはこの勢いを残りのリーグ戦に繋げてほしいし、武蔵野はこの踏ん張りどころで再び復調の手がかりを見つけてくれることを祈りたい。