新型コロナウイルス感染拡大防止のため、しばらくアウェイでの試合観戦ができなかったJリーグだが、10月に入ってからクラブによってビジター席の設置が許可されることとなり、横浜FCは今節からホームゲームでビジター席を設けて試合を開催することに。その最初のホームゲームの対戦相手は東京だ。東京ファンの立場からすると、2月の開幕戦での日本平以来、実に8ヵ月ぶりに観戦が可能なアウェイゲームということになる。三ツ沢は元々ビジター席の割り当て枚数が多くないスタジアムであり、本来ならばチケットは即完売してもおかしくないのだが、今回は当日まで完売せず。客足が戻るまで苦労しているのはどこのクラブも同じなのだ。こういった状況下でアウェイまで観に行くかどうかは個人の自由だと思う。自分は今回の制限緩和で少し活動範囲を広げようと思っているし、都合のつく限り、ありがたく観させていただくつもりだ。その三ツ沢に乗り込む東京は、8月から中2,3日で19連戦という過酷な日程だったが、その連戦もこの試合でひと区切りとなるが、そういう試合でこそ気の緩みが出ないようにしなければならない。横浜には9月に行われた味スタでのホームゲームでも先制を許しており、最終的には逆転したものの苦しい展開となっただけに注意が必要だ。ホームの横浜は、その9月の試合で東京を苦しめた手塚・安永のボランチコンビが揃って出場。攻撃の中心である松尾はベンチにも入っていないが、どのような戦い方で来るのだろうか。
入りの布陣が気になる東京だが、今節はディエゴが左サイドに周り、髙萩が永井の周囲でサポートする形。4-4-2というよりは、髙萩がトップ下の4-2-3-1というのが適当だろう。一方の横浜は瀬沼と一美の2トップを組み、特に一美が積極的にシュートを狙ってくる。東京は後方を固めて相手の出方を見るスタンスだが、容易に撃たれないようにしたい。横浜は手塚が最終ラインに近いところでボールの引き取り役を担い、安永と縦関係を作って全体を押し上げる姿勢が見られるが、東京が危険なエリアに入れさせず。静かな展開のまま時計が進む。攻撃の糸口を掴めない横浜は飲水タイム明けの24分に早々に松浦を下げ、瀬古を右SHに投入。この采配は後々効いてくることになるが、この時点でそれを知る由は無い。飲水タイム以降の東京はボールを拾ってもすぐに奪い返され、押し込まれる時間が続く。37分、横浜はポストプレイを試みた一美に対してオマリが遅れて頭から競る形となり、両者昏倒。結局一美は皆川と交代、流血したオマリも一時はピッチに戻ったが、結局HTで渡辺に交代となった。抜きんでた積極性を見せていた一美が交代したことで攻撃のポイントを1つ失った横浜に対し、劣勢ながら0-0で前半を終えた東京は、後半頭から髙萩を下げて三田を投入し、ディエゴと永井の2トップにスイッチ。これでようやく試合の主導権を握る。50分に三田のFKを渡辺が折り返して田川が飛び込むビッグチャンスを作ると、その後も三田が絡んでの速攻でチャンスを作り、相手ゴールを連続して脅かす。横浜も右サイド中心にボールを持てる場面は見られたが、スコアは動かず試合終盤へ。80分、ロングフィードに抜け出したディエゴの折り返しに途中出場の原がフリーで走りこむが、シュートはGK・六反がビッグセーブ。88分にも途中出場の拓海の絶妙なクロスに原が飛び込むが、僅かに合わず。度重なるビッグチャンスを逃し、ビジタースタンドからは呻き声が響く。直後、横浜は瀬古のロングフィードを渡辺がカットした所に瀬沼がプレスをかけてボールを奪取。こぼれ球を途中出場の草野が拾って仕掛けると、スライディングで飛びこんだ森重をかわし、シュートを左隅に流しこんで1-0。土壇場での先制点に、三ツ沢は地鳴りのような大歓声となった。東京はすぐさまパワープレイに切り替え、ATにゴール前での混戦を複数回作り出したが、横浜の決死の守備をこじ開けられずに試合終了。終盤の先制点を守り切った横浜がホームで大きな勝点「3」奪取となった。
まずは、横浜の粘り強い守備、そしてワンチャンスを決めきる勝負強さを褒め称えるべき試合だったと思う。前半の早い時間帯に松浦を交代させた後、一美がアクシデントで2回目の交代カードを切らざるを得なくなったことで、後半の交代チャンスはたったの1回しか無かったが、その1回で投入した草野が決勝点の活躍。これは下平監督の采配が絶妙だったと言わざるをえない。草野は昨季のJ2でも試合終盤の決勝点を挙げる活躍を見せたことがあり、いわば「持っている」選手。東京が草野をそこまで警戒していたかどうかは不明だが、結果的には彼をフリーにしてしまったわけであり、一本取られたと言うしかない。また、前半に松浦に代えて投入した瀬古が地味ながらとても良い働きをしていたのもポイントだ。特に瀬古・安永・マギーニョのトライアングルの部分ではパスがよく繋がり、ここが起点になれたことも勝因のひとつだろう。最後に勝つために必要な伏線はピッチのそこかしこに転がっていて、それを丁寧に拾い集めた結果が横浜に勝利をもたらし、そしてその芽を摘み取れなかったのが東京の敗戦に繋がったといえるだろう。それにしても、東京にとっては受け入れがたい、ほろ苦い結末のアウェイゲームだった。端的に言ってしまえば、後半の度重なる決定機を決めきれなかったのが全てだ。前半、せっかくのマイボールをみすみす相手に渡すような形で失ってしまい、劣勢を強いられたのも課題だが、それでも0-0で耐えてHTを迎えることができたのは事実。後半の選手交代で主導権を握れたのも事実だ。しかし、そこで決めきれずに0-0のまま終盤にもつれ込み、強引に勝ちに行ったことで守備のバランスを崩してしまった。本来ならば最悪でも0-0のまま終わらせて勝点「1」を持ち帰らなければならないところだが、最終ラインの所で少し色気を出してしまったところを突かれてしまった。安全第一というプレーモデルを試合終盤で保てなかったのは、単純にチームの実力不足というしかない。また、横浜ゴール前の競り合いで相手のハンドリングがあったのではないかと東京の選手が再三主審に詰め寄る場面もあったが、中にはインプレー中にも関わらず抗議のためにプレーをやめてしまう選手もおり、観ていてあまり気持ちの良いものではなかった。連戦の最後で、メンタル面の弱さを露呈する形になったのは極めて残念だ。順位こそ暫定3位だが、消化試合数を考えると、上位争いから脱落しかねない状況に追い込まれた。今こそ踏ん張りどころだ。