昼間は保土ヶ谷サッカー場で関東リーグの最終節を見届けた自分だが、その次は栃木県グリーンスタジアムへハシゴする。J2残留争いの大一番、栃木×鹿児島の試合を観るためだ。横浜から東海道線に乗り、東京から東北新幹線に乗り換えて一気に宇都宮へ。こういう時、新幹線の乗車券分もカバーしてくれる「休日おでかけパス」の存在はありがたい(自治医大から先は要精算だが)。宇都宮からのシャトルバスも快調で、無事キックオフに間に合った。チーム状況を整理しておくと、栃木は勝点「25」の21位、鹿児島は勝点「30」の20位。両チームの間には、勝点差「5」と、そして天と地を分けるJ3降格ラインが横たわっている。仮にこの試合で鹿児島が勝利することがあれば勝点差は「8」に開くこととなり、栃木にとってはJ2残留が極めて難しくなる重要な「6ポインター」だ。その栃木は第22節の山口戦(H)以来実に10試合勝利から見放されており、特に攻撃面では5試合連続ノーゴールと深刻な得点力不足に苦しんでいるだけに、この試合でどのように修正するのかが注目ポイント。発表されたメンバーを見ると、栃木が前節からスタメンを5人入れ替えてきたのに対し、鹿児島はほぼ馴染みのメンバー。この一戦に臨むにあたってのスタンスが早くも垣間見えるラインナップである。コイントスで栃木がコートチェンジを選び、栃木が先にホーム側へ攻める形でキックオフとなった。
試合開始早々に気づいたのは、前節まで3バックだったはずの栃木が4バックを敷いてきたこと。おそらく守備の安定を狙ってのものだと思われ、ちょっとした驚きではあったが、それ以上に興味を引くのは、榊とヘニキの2トップだ。主に中盤の守備的なポジションが本職であるはずのヘニキを最前線に配置する采配だが、この狙いは的中する。開始直後からハイプレスで鹿児島に圧力をかける栃木は、5分に獲得した左CKを中央の田代がヘディングで合わせて1-0。6試合ぶりの得点で早くもリードを奪う。14分、ヘニキのキープから右サイドに展開し、クロスのこぼれ球をユウリが押し込むシュートは惜しくも枠の上に外れるが、直後に鹿児島が自陣内のパスでリスタートすると、ユウリがすぐさまボールホルダーの平川にプレス。ルーズボールを拾った榊がシュートに持ち込み、ゴール右隅に決まって2-0。たちまち栃木が大きな2点リードを得る。鹿児島はトップ下の枝本になかなかボールが入らず、決定機に繋がらない。前半ATには五領の右CKからゴール前で混戦となるが、これも押し込めずに前半終了。後半、鹿児島は右サイドで得た直接FKをニアの水本が先に触ってコースを変え、これが決まって2-1。後半の早い時間帯に1点を返し、反撃の狼煙。直後の55分には牛之濵がPA内の密集を抜け出してシュートを放つが、栃木がゴールラインギリギリで掻き出し、更なる追撃を許さない。徐々に鹿児島がゲームを支配するようになり、逃げる栃木は2トップをチェンジ。65分にスピードのある平岡、67分に長身の金玄を投入する。すると72分、栃木はGKからのロングフィードを金玄が競り合い、DFラインの裏へのこぼれ球を平岡がチェイス。これは安俊洙が身体を張って防ぐが、転々とこぼれたボールをすかさず大﨑が無人のゴールに蹴りこみ3-1。途中交代の2人が絡む得点で、栃木が再びリードを広げる。反撃ムードの途中だった鹿児島にとって、この追加点はあまりに重かった。後半から降り出した雨の影響でピッチ状態も徐々に悪くなり、ロングボールなども織り交ぜながら反撃を試みる鹿児島だが、前線で待つルカオや途中交代の韓勇太にボールが収まってもその次が無く、栃木が3-1のまま無事逃げ切りに成功。大一番を制した栃木が鹿児島との勝点差を「2」に縮め、J2残留に向けて大きく前進した。
栃木からすれば、何から何まで全てが上手く運んだゲームだった。理由は至ってシンプルで、栃木の鹿児島対策が万全だったこと、そして、鹿児島が栃木の想定を超えるサッカーをしてこなかったこと。この2点に尽きると思う。まず栃木の鹿児島対策については、榊とヘニキを2トップに据えた4-4-2が完璧に機能した。前線からボールに対して激しくプレスをかけ、鹿児島のビルドアップを封じに行ったのだ。得意の組み立てに苦心した鹿児島は「自分たちのサッカー」をできなくなり、更に開始5分にセットプレイで先制を許したことで、完全に栃木の勢いに飲まれていたように見えた。中盤の平川がボールの出しどころに逡巡した隙を突いてボールを狩り取って榊の得点に結びついた栃木の2点目は、その象徴的な場面だ。栃木がコイントスでコートチェンジを選択したのも、前半勝負を仕掛けて逃げ切りを図る狙いがあってのことだろう。後半はセットプレイで追撃を許す展開だったが、2トップを平岡と金玄のユニットに代え、割り切ったロングボールに徹することで貴重な追加点も決めた。雨でピッチ状態が悪化し、鹿児島がパスを回しづらくなったこともプラスに働いたと思う。鹿児島は、天王山ともいえる一戦で栃木の作戦にものの見事にはまってしまい、完敗と言わざるを得ない結果に。栃木との勝点差や、アウェイという環境を考えれば、ドローでも全く問題ない試合だったはずが、ビルドアップに拘泥して栃木のプレスの網にかけられて失点し、一気に苦しくなってしまった。個人的に鹿児島のサッカーは好きだし、このサッカーでJ2に残れたら大きな財産になると思っている。ただ、今日に関してはもう少し柔軟な立ち回りをしても良かったのではないか。ルカオはオールマイティにFWの仕事をこなせるし、五領と牛之濵の両サイドアタッカーも、1人で局面を打開できるスキルを持っている。トップ下の枝本は栃木のユウリに仕事をさせてもらえなかったが、持ち味を出せる選手は前線にいたはず。そこで栃木の想定内の崩ししかできなかったことが、鹿児島の最大の敗因ではないかと感じた。依然として鹿児島が勝点で上にいる状況に変わりないとはいえ、「潮目」が変わった瞬間の感覚を覚える夜だった。